第3話 薬中イカれ賢者

「ここが……冒険者ギルドか」


 目の前には中世ヨーロッパ風の建物があり、入口の看板には剣がクロスした意匠が刻まれている。


「そうだよ、ほら早く入ろう!」

 

 ギルドに入ると!

クエストボードの依頼書と睨めっこする冒険者や、丸テーブルで作戦会議をするパーティー、酒をあおって笑い声を上げるドワーフがいた。

 だが、その全員が一瞬、こちらを見てフリーズした。


「……おい、見ろよ。すげえ美人だ」


「エルフも可愛いけど、あの銀髪の女は桁違いだな」


 ざわめきが広がり、更にたくさんの視線が集まる。

俺は苦笑を浮かべた。


(……見られるのは、やっぱり慣れないな)



「ようこそ! 冒険者ギルドへ! 初めての方ですね!」


 カウンターにいた美人な受付嬢が笑顔で言う。


「登録ですか? 依頼ですか?」


「登録です」


 俺がそう答えると、受付嬢は書類を手渡してきた。


「こちらの書類にご記入ください」


 文字を見た瞬間、俺は眉をひそめた。


(……全然読めねえ――だが、この俺にはスキル【創造】がある!)


 スキルを使うと言語を習得できたみたいで無事、内容が理解できる様になった。

早速、ペンを走らせ、名前欄に『クレイシア』、職業欄には『神…』あっ、ミスった。

塗りつぶして『魔法使い』と記入した。

そして、他の項目もすべて記入して受付嬢に手渡すと!


 すぐにギルドカードが発行され、手渡される。


「こちらがギルドカードになります! 無くすとお金がかかるので気をつけてください! 登録した冒険者は、ランクEから始まって最高がSです。 頑張ってください!」


「これで古代遺跡に――」


 と言った瞬間、受付嬢が申し訳なさそうに口を開いた。


「大変申し訳ありませんが、古代遺跡はまだ中がよくわかっていない危険地帯です。ですので、ランクC以上の冒険者がパーティーにいることが条件となります」


「……嘘でしょ?!」


 どうしようかな?

セリナに目を向けると!


「ごめんね! 私、少し前に登録したばっかりでランクEなんだよね」


 マジかよ! 困ったな、どうしよう?


 その時だった!


「――ほう。古代遺跡に行きたいのか?」


 低い声がギルド内に響くと、場の空気が一変する。


「来たぞ!薬中のオルト!」


「今日もキマってるな」


 周囲の冒険者たちが面白がるようにざわつき、距離を取った。


 黒いローブに身を包み、フードを深くかぶった白髪のおじさんがゆっくりと近づいて来る。

そして、フードの下から狂気の赤い瞳が鋭く、こちらを見据えていた。


「そこのお嬢さん達。わしと一緒に古代遺跡に行くか?」


 その赤い目は、真剣な眼差しをしている。


「やめとけ! そいつは薬中のオルトだぞ!」


「そうだぞ! だから俺たちと組んだ方がいいぞ!」


「いや、お前はランクDだろ!」


「アイツ本当にランクSなのかよ?」


 周囲の冒険者たちが口々に叫ぶ。




 だが俺は、じっとその赤い瞳を見つめた。


(この人……ただの薬中には見えない、話を聞いてから決めよう)


「あの、少し話がしたいので個室に行きませんか?」


 そう、俺が言った瞬間にセリナが口を開いた。


「えっ?! やめようよ! この人、なんだかヤバそうだよ!」


 とても必死に止めてくる。


「おいおい、なんの騒ぎだ?」


 奥から、厳ついおじさんが出てきた。


「ギルドマスター!」


 受付嬢がそう言って、事情を説明する。


 それを聞いたギルマスは口を開いた。


「……最近、頭のおかしい奴がいるって話を聞いてたんだ。 丁度いい、確認しておきたいからオレも同席する」




 個室に入って椅子に腰を下ろすと、薬中のオルトがすぐに机を『バン!』と叩いた。


「ひいぃぃ…」


 とセリナが怖がる。


「…まず言っておくが、わしは薬物中毒者などでは断じてない! 理解したか?」


「わかりました」


 俺は真剣にうなずく。


「は、はいぃぃ……」


 セリナは震えた声で答えた。


「ああ、理解したよ(信じちゃいないがな)」


 ギルマスが冷ややかに返す。


「では本題に入る!」


 オルトは一瞬、目を閉じた後、声を張った。


「わしの名はオルト・ライニーブンだ。オル爺と呼んでくれ! 称号は賢者だ!」


 とオル爺が簡単に自己紹介を済ませる。


「わしはあの古代遺跡が、今は亡き旧神そして古代帝国=タルタリア帝国の巨人によってはるか昔に創り出された建造物だと考えている!」


「おい! ちょっと待て! イカれ賢者! 頭おかしいんじゃないか?」


「オル爺だ!」


 すぐにオル爺が反応して返した。


「そこは否定でしょ!」


 セリナが即座にツッコミを入れる。


「そうだ! そういうことだ! わしはオル爺だ!」


「「だから否定しろ!」」


 セリナとギルマスが同時にツッコんだ。


「ン゛ン゛ン゛ヴエ゛ッン゛」


 オル爺は咳払いをして口を開く。


「……それより、ギルマス言いたい事は、なんだ?」


「ああ、そうだったな。 まず話がぶっ飛んでる、今は亡き旧神とか古代帝国=タルタルソースとか巨人とかが創り出した建造物って頭おかしくないか? イカれてるのか?」


「それは、あの古代遺跡から考えたことだ! あのピラミッド型の遺跡と同じ形をした建造物は、このキネルロス大陸中にいくつもあるんだ。 更にその形があまりにも精密かつ精巧に出来ていて、人類では到底造れるわけがない! しかもデカすぎる!」


 そう言っているオル爺の赤い瞳は、瞳孔が開いていて完全にキマっていた。


 ギルマスは呆れたように立ち上がると――


「くだらねぇ……もう好きにしろ! もし問題を起こしたら、その時は責任を取れよ。 絶対だぞ!」


 念押ししたギルマスが退室しようとする。


「クソッ! ……時間の無駄だった。 この薬中イカれオル爺が」


 ギルマスは、小声でそう言って出ていった。


「薬中でもイカれでもオル爺でもない! ……ん? わしは、誰だ?」


 オル爺が混乱している。


(……この人、やっぱりいろいろ知っていそうだな。よし、決めた!)


「アハハハ! オル爺って、面白いね! それじゃあ、このメンバーでパーティーを組もう! これからよろしく!」


「えっ?! ほんとにこの人と? 考え直そうよ!」


 セリナが嫌がっていた。

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