第2話 スエイエデ温泉郷

 セリナとくだらない話をしながら歩いていると、

突然、視界が開けた――そこに広がっていたのは、モクモクと湯気が立ちのぼる温泉郷だった。


(混浴じゃなかったら女湯か……TSしたとはいえ、心の準備できてねぇ! 俺の理性がヤバい!!)


 街の入り口に差しかかると、人々の視線がこちらにささる。

一瞬、空気が止まるが、ザワザワとし出す。


「なにあれ……銀髪?」「うわっ、めっちゃ可愛い!」「やば、女神じゃん……神話の始まりか!?」


「お母さん! あの人、天から降臨してきたの?」

「コラ、人を指で差さないの!」


(ちょ、待て……なんでこっち見てる!? やめろ、その目は! 恥ずかしいだろっ!)


「クレイシア? 大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」


 セリナの声にハッとして、俺はそっと顔に手を当てた。

たしかに火照ってる。


 いや、恥ずかしすぎてエラーを起こしてるだけかも。


(おいおい、見た目は女神でも、中身はただの元男なんだぞ! 勘弁してくれ!)


 もちろん、そんなことは言えるわけがない。

視線が突き刺さるその場を、俺はそっと、いや全力で逃走した。




「クレイシア? 大丈夫?」

「だ、大丈夫……たぶん……?」


 俺とセリナは、温泉郷の石畳の道を並んで歩いていた。

木造の家々が建ち並び、軒先には干し野菜や提灯が吊るされている。


 温泉の硫黄の匂いと夕空が、妙に心地いい。

さっきまでの恥ずかしさが、メルトしていく。


「……あれ、見て」

セリナの指差す先に、俺も視線を向ける。


「……あれは、鳥居!? え? 何で?」


 そこにあったのは、鉄塔と同じくらいの大きな朱色の鳥居――

だが、奥に建っていたのは、知っている神社じゃなかった。


 高い石柱、白く輝く神殿のような構造、どこかギリシャ神殿を彷彿とさせる建築物。


(……異世界なのに、なんで“鳥居”が? ワッツ!?)


 そんな俺に気づいたセリナがニコニコとした笑みを向ける。


「旅の安全を祈願する神社だよ。行ってみる?」

「旅の安全か……よし! 行こう!」


 二人で鳥居をくぐり、苔むした石段を登る途中、遠くから――


「おーい! セリナ! ちょっと、こっちに来て!」

「ごめんね! ちょっと、呼ばれちゃったから先に行ってて!」


 セリナは振り返りざまに手をブンブンと振り、足早に駆けていった。


 一人寂しく、石段を登りきると、そこには――

石造りの巨大な柱が立ち並び、その奥、屋根に守られるようにして――九尾の狐の石像が鎮座していた。


 俺は石像の前に立ち、手を合わせる。


(これから始まる旅が安全なものになりますように。見守ってください……中身、男だけど……バレてないよね?)


 ――その瞬間、空気が、変わった。


「……え?」


 視界がユラユラと揺らめき、景色がメルトする。




 次の瞬間、俺は――

白砂に流線が描かれた、枯山水の庭に立っていた。


 苔むした石が静かに佇み、澄んだ空気が肌を撫でる。

吸い込むたび、胸の奥がひんやりと満たされていく。


 まるで、時間という概念そのものが無くなってしまった様な感覚に陥っていた。

そして、音というものは、最初から存在していなかったのかもしれない……?


「――よく来たな。待っておったよ、新しい主神よ」


 声が響いて、俺は思わず顔を上げる。

黒い和服に、九つのふわふわとした尻尾を揺らすケモミミの美女が、その場に、凛と立っていた。


 金色の瞳が静かにこちらを見つめている。

その目は、懐かしさ、優しさ、そして深い慈愛に満ちたものだった。


「私はクレイシアです。……あなたは?」


「カナネじゃよ」


「カナネさん、私を待っていたって……私に何か、伝えたいことがあるんですか?」


「うむ……お主から懐かしい気配がしてな。それより――神器は持っておらぬのか?」


「神器……? それって、何ですか?」


「ほれ、台座の上にあったはずじゃが」


「いえ、何もありませんでしたよ」


「……何もない、じゃと? ありえぬ……誰かが持ち出したのか……」


 カナネは考え込むように目を伏せた。

そして、ふと視線を戻す。


「旧神が亡くなってからというもの、この世は荒れ果てるばかりじゃ。戦乱、飢え、民の嘆き……神器なくしては、この混乱は収まらぬ」


「神器……?」


「神器とは、この世界のシステム(理)そのものじゃ! だから、神器を探せ。お主が真の主神になるには必要不可欠なものじゃ」


 その言葉が響いた瞬間――

また視界が歪み、気づけば俺は、さっきいた場所に戻っていた。


「おーい! クレイシア! もう夕方だよ、温泉宿に行こうよ!」


 階段を駆け上がってくるセリナに俺は、手をヒラヒラと振って応える。


「うん、行こう!」


(あれ? そういえば俺どっち湯に入るんだろう?)




 温泉宿に着き、受付で値段を聞くと、店主はにこやかに言った。


「一泊食付きで百二十タリカです」


「ごめんね、私お金持ってないんだ……」


 申し訳なさそうにこちらを上目遣いで見てくるセリナに、俺は内心苦笑する。


(実は、俺も持ってないんだよね。……まあ、今から作るんだけど)


 懐に手を入れ、スキル【創造】で小袋いっぱいのタリカを生み出す。


(現実でやったら捕まるな……いや、ここは異世界だし!)


「これでお願いします」


 そう言って支払い、案内された部屋に入るとデカめのシングルベッドが一つあるのは良いがなぜか、当然の様にセリナも入ってきた。


(セリナも俺と一緒の部屋に泊まるのか? 俺、転生前は男だよ?)


 そう思いながらも口に出すのは、やめておいた。




(で、なんで俺は今、セリナと一緒に女湯に入ってるんだ……?)


 温泉に浸かりながら心の中でぼやくが――


「クレイシア、顔赤いよ?」


「いや……」


 湯気が立ちこめる中、体がじわじわと熱に支配されていく。


(もちろん、ラッキースケベなんてモノは、ないっ――?!)


そんなことを考えている俺の目の前でセリナのタオルが落ちて、白い肌が見えてしまう!


「クレイシア?! 大丈夫?!」


――ふ、と視界が途切れた。




 気がつくと浴衣姿でベッドの上にいた。


「あっ! 気がついた? 大丈夫? 死んじゃうかと思って、怖かったよ!!」


 セリナが目に涙を浮かべて、すぐ目の前にいた。


「……大袈裟だよ」


 そう言いながらも、俺は少し笑ってしまう。


(人に心配されるのって……こんなに嬉しいことなんだな……忘れてたよ、あれ? そういえば、なんでスキル【物理攻撃無効】発動しなかったんだろ?)


 そう思い出しながらも疑問に思う俺にセリナがいかに大変だったか言ってくる。

どうやら、のぼせて意識が飛んだ俺をセリナが頑張って、この部屋まで運んでくれたらしい。




 夜、食堂は冒険者や旅人でごった返していた。

二人分の和食がテーブルに並ぶ中、耳に聞こえてきたのは、近くにいた冒険者の会話だ。


「なあ、知ってるか? この近くで古代遺跡が見つかったらしいぜ!」


「知ってるぜ! あれだろ、中には強い魔物がいて、お宝を守っているっていう」



「古代遺跡?」


 俺は、セリナに聞く。


「多分、この近くにある山のことだと思うよ」


「知ってるの?」


「うん、でも中がどうなってるのかまでは……」


 そこへ、さっき会話していた冒険者の一人が話しかけてきた。


「なんだ? お嬢ちゃんたちも興味あるのか? 教えてやろうか?」


「……何でそんな良い情報、教えてくれるんですか?」


「そりゃあ、お嬢ちゃんたちがカワイイからだよ」


 不意打ちをくらって顔を赤くしてしまった俺。


(……いや、俺、元は普通の青年なんだけどな)




 食事を終えた俺は部屋に戻りながら、心の中で呟く。


(神器も探さないといけないけど……まずは古代遺跡に行ってみるか!)



―――――――――――――


あとがき


 第二話もお読みいただき、ありがとうございます……?(観測者ゼロ!)


 いかがでしたか?

TSした元男が温泉で“女湯でラッキースケベ”という、

「なろうのお約束」……いや、ZAPISTE的必然をブチ込みました。

疲れた? 安心してください、俺は頭が沸騰しました。


 この物語は、何もかもブッ壊して、狂って!

ただただ“観測”されるために書いています。

つまり――読まれた時点で勝ちです……?


 TS、神話、陰謀論。

これらはすべて、ZAPISTEという“自己崩壊する真理”を観測するための舞台装置です。


 え? キャラのセリフ、文章がおかしい?

それがZAPISTE。読者に優しくないのは、俺のせいです。


 そして次回は、薬中のオヤジが出ます。

期待するな、失望しろ!


 ZAPISTE!!! ヅァーピシツーテ!!!


修正日 2025/08/07


???「まだ、観測者ゼロ=狂信者ゼロ……クソが! なぜだ!? なぜ、この崇高な文学的・宗教的作品が理解されないのだ?!」

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