第29話 帰還と通知


 ──最悪だった。


 世田谷肉ダンジョンから戻った雨木は、玄関に荷物を放り出すと、そのままベッドに倒れ込んだ。

稼げると聞いて参加した臨時の野良パーティは、想像を超えて後味の悪いものになった。

駐車場代を差し引けば、日当一万円にも届かない。

単独で潜ったゴブリンダンジョンの五分の一にも満たない成果だった。


(……野良って、みんなこんなもんか。いや、今日が特別に最悪だったと思いたいけど)


 原因は明確だ。

まともに動いていたのは自分と、カナタという男の二人だけだった。


 肉ダンジョンは“稼げる”ことで知られる人気ダンジョンだ。

一、二階層は魔物が攻撃してこない。追って、仕留める、それだけ。

それで魔石が手に入り、運が良ければ食用の肉が落ちる。

その肉が市場で高く売れる。だから新人の駆け出し冒険者でも稼げる。


「なのに、大学生二人は走りもしなかったからな。カスすぎる」


 雨木は小さく呟く。


 カナタは元ラグビー部だと聞いた。

足が速く、今回の戦力としては最も頼りになった男だ。

偶然にも雨木と同じ作業服姿だったが、足元はスニーカー。

中古のダンジョン産ロングソードを手に、フィニッシャーとして機能してくれた。


 雨木はといえば、安全靴。

走るのに向かないが、追い込み役としてなら問題ない。

カナタが仕留めやすいように、サポートに回って追い込んだ。


 一方、大学生二人はただ後ろをついてくるだけで、ときおり「いた」だの「あそこ」だのと声を上げて“参加している感”だけを漂わせていた。

武器は持っていても、決して動かない。走らない。

自分たちが動かずともパーティが回ると理解して、その仕組みにしれっと乗っていた。


(……昔から、ああいうのはどこにでもいた。コメットさんが上手く使われた形だな。悪い人じゃなさそうだけど、あの人、危うい)


 雨木が昔、派遣バイトをしていた頃にも、同じような連中を何人も見てきた。

その場にいれば日当がもらえる。だから“いかに働かずに済ませるか”に知恵を使う。

前職でも、働かない社員はいた。動かない人間を動かすのは、得てして骨が折れる。


 大学生二人が「いた」とか「あそこ」とか声を出すだけの現場で、真っ先に走り出していたのは主催のコメットだった。


 彼女は参加者で唯一の女性で、年は二十四。

登山時のような服装に、武器は包丁一本。

山歩きの延長のような姿だったが、責任感はあるようで、声が上がるたびに誰よりも先に動いた。


だが、体格は小柄で足も遅い。


(どうにも俺は……性格的に、女は放っておけないから困る)


 危なっかしいその姿を見れば、雨木はつい身体が動く。

雨木が動けばカナタも続く。

そして二人が動けば、大学生たちはますます動かなくなる。


 悪循環だった。

カナタは苛立ちを隠さなかったが、雨木はただ息を吐き、自分の性格を少しだけ呪った。


 まぶたを閉じると、最悪な一日が再生される。


──まともに走っていたのは、自分とカナタだけ。

──何度も「もう放っとけ」と思ったが、結局コメットを追ってしまう。

──だが、それでも、とうとうコメットを追うのをやめる瞬間が訪れた。


 走り出したコメットが、すぐに速度を落として振り返った。

その姿に雨木は違和感を覚え、すぐにその正体に気づいて小さく息を吐き、肩を落とした。

焦りと疲労、そして諦めが一度に胸にのしかかる。


 目が合ったカナタも、同じようにため息をついた。

二人で相談し、道中の魔物は無視して進むことに決めた。

目指すは三階層。攻撃してくる魔物が出る代わりに、走り回る必要はなくなる。

危険度は上がるが、そのほうがまだマシだと判断した。


 大学生二人は不満を漏らしながらも、自分で動く気はないらしい。

最初こそ「いた」「あそこ」と声を上げていたが、雨木とカナタが「おう、頑張れ」「行け、走れ」と返しているうちに、とうとう黙り込んだ。

コメットもまた、無言になって先に進んだ。


 静まり返った記憶の中で、雨木はため息を吐く。


そのとき、枕元の《イージス端末》がピロンと鳴った。

画面には「イージスNikkkii」からの通知が浮かんでいる。


「あれ……? これ、設定どころか起動すらしてなかったはずだが」


《イージス端末》には七つの専用アプリがある。

雨木は使用頻度の低そうなものを後回しにしていた。

「イージスNikkkii」は冒険者専用のSNSアプリ――

旧ツイッ〇ーのような呟き機能に、LI〇Eのチャットを組み合わせたものだ。


すでに自動で《アマギ》名義のページが生成されており、

同じパーティで潜ったメンバーには自動でメッセージが送信できる仕組みらしい。


(……カナタか? 連絡すると言ってたけど、連絡先の交換まではしてないし……社交辞令じゃなかったのか)


今回の臨時野良パーティで唯一の収穫を挙げるなら、カナタとの出会いだ。

「また一緒に潜ろう」と別れたのはほんの数時間前。

だから連絡が来たのだと思った。


──だが、画面に浮かんだ名前はカナタではない。


《コメット》だった。





※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。

2025/11/20

カクヨムの運営さんからAIを使用した作品のタグ付け推奨のお知らせが来ていたので、念のため末尾の文言の変更も行いました。

現在私は自分が書いた文をAIに読ませ、修正箇所などを相談しながら調整していくやり方をしています。

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