佐藤一郎(仮名)
縞間かおる
前編
“革命の士”になりたくてわざわざ東京の駿河台の大学へ入学したのに、世の中は違う方へと変わり始めとった。
あれは1971年。
三里塚第一次強制代執行の騒ぎもまだ冷めやらんうちに初めて東京へ来て、大学を受験した。熱い思いを胸に……
けど、無事入学を果たした頃から何や違和感があって「6.17闘争」の集会には加わらんかった。
どのみち授業はまともに出えへんかったから、叔父の具合が悪くなったのを聞いて叔父の工場の手伝いで大阪へ舞い戻った。
ようやく東京へ戻って来たのは秋口で……そうこうしているうちに“沖縄国会”の最中に革マルと中核が戦争状態になった。
翌年の2月は忘れられへん。
ニクソンが訪中してわずか1週間後、あさま山荘へ鉄球が打ち込まれた。
もうこれは違うやろ! 今、何ゆうても国民を敵に回すだけや!!
せやけど
これから何の“行動”を起こして“思想”を立てて行ってエエか分からんようになった。
もう新聞にも目え通さへんしテレビも見いひん。
かと言って『教科書=教授の書いた本』も読む気にはなれず、『少■マガジン』を積読しとった。
まあ、カツカツの“おいどん”生活やったから、ほんまはラーメン屋のバイトに精出して……稼いだ金を家賃とかに回せばええのに、“吉原”で“精”出して残りは飲み代に消えてもうた。
とにかく留年はせんと3回生にはなれたけど。
「お前、そんなロクデナシやったら店と“
ついにオヤジがキレて実家の店(スーパーもどき)の手伝いに帰った直後、例の“トイレットペーパー騒動”が起きた。
オレにはそれがどういう仕組みか『見えた』ので、オヤジと入院している“次郎叔父”には内緒で、機械を二束三文で売っ払い、二番抵当まで付けた工場をトイレットペーパーで埋め尽くした。
そして、「素知らぬ顔」をして、来たお客には「トイレットペーパーは売り切れです」と答えて続けていた。
そんなある日、自転車に乗った野球帽の少年が一人でトイレットペーパーを買いに来た。
「ボウズ!お使いでトイレットペーパー探し回っとるんか?! エライなあ! よっしゃ! 兄ちゃんがええモン見せたるから付いてき」
そう言って自転車で二人連れ立って廃水の悪臭が立ちこめるドブ川沿いの叔父の工場へ行き、中を見せた。
「ええか!! お前が今見たもんは絶対秘密やで!! お前のお母さん以外には、誰にも言うたらあかん!!」
オレは『千円で売ります』とだけ書いたメモを少年に握らせた。
それだけで充分やった。
工場を埋めつくしていたトイレットペーパーは皆、札束に変わり、工場を更地にして叔父に返した後でも、オレの手元には大金が残った。
その金を抱えて新幹線で東京へ戻り
東京駅からタクシーで直行した吉原で豪遊していたら、
そりゃそうやな、“ピッチリとした開襟シャツにベルボトム”の兄ちゃんが札ビラ切ってるんは目立つ。
妙に小ぎれいな事務所へ通され、コワイ人たちに囲まれた。
さすがにこりゃあかんと思ったので、かなりホントの事をゲロしたら、どでかいデスクの上で手を組んでいたそこのボスがタバコをくれた。
「いい若いモンが遊んでばかりはいけねえよな! 今は公害でみんな困ってんだ、ちったあ社会貢献しな!」
「社会貢献?ですか?」
「おうよ!」
話を聞いてみると公害問題で立ち行かなくなった工場を更地にしての
そのシノギをオレにやらせた訳だ。
ずっと後になって、オレの手掛けた土地の近くを車で通った時、その土地に建っている何軒かにミカンだか柿だかが鈴なりになっているのが見えて、さすがにゾッ!とした。
オレは絶対その上を歩きたくも無い土地だからだ。
ましてやその汚染土壌でできた物を口にするなぞ……
文字通り『知らぬが仏』になっちまう。
まあそのおかげで、東京弁に染まる頃には……“某光クラブの山崎氏”には遠く及ばないが、今で言う“学生起業家”として羽振り良く銀座で“クラブ活動”をしていた。
しかし“クラブ活動”をやってた連中は、オレなんか足元にも及ばないくらいに商才や
2年ダブりはしたが……卒業後は首尾よく中学の社会の教鞭を取る事ができた。
いわゆる“でもしか教師”として昼間の仕事は
そんな生活が5年ほど続いた頃、同僚の音楽教師が産休に入り、「名前だけでいいから」とコーラス部の顧問を仰せつかった。
音楽室の外から様子を伺ってみると部員は女子だけで、中でもピアノで伴奏をしていた3年の池田さんが飛び抜けていて……“色付きの女”に飽き飽きしていたオレの目を惹いた。
オレは早速、懇意にしている“クラブのピアノマン”から当時はやっていた“西やん”の『ピアノが何たら』と言う曲を猛特訓してもらった。
余談だがオレが唯一母親に恩義を感じたのはこの時だ。気まぐれで、幼いオレをその当時流行していた音楽教室に通わせたから。
さて、部員との顔合わせの時にオレはこの曲をサラリ!と弾き
「オレは“この曲の通り”これしか弾けないけど、皆の足を引っ張らないよう頑張るからよろしく頼むよ」と挨拶し、狙い通り
オレは学生の頃フォークギターをかじっていたので、レクリエーションの時にはフォークソングのみならず歌謡曲までも(いわゆるコード譜付きの唄本を活用した)オレのギターで皆で歌ったりして距離を縮め、お目当ての池田さんからはピアノの個人レッスンを受ける様になった。そしてレッスンを受けた内容をその日の夜にはピアノマンのところで復習した。
そんな努力が実を結ばない訳は無く、程なく池田さんはオレに夢中になった。
この様なシロウトの女を口説く事はオレにとっては“シノギ”を踏むのと同じ立ち位置で面白く、達成した感覚は“アレの達成”と相まって他では得難いものがあった。
そういう訳で、夜と昼の『クラブ活動』を両立させて、いつも金とオンナを絶やさない日々が始まった。
後編へ続く
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