第26話 小動物系癒しギャルとのデート
くじ引きによりデートの順番は、
「トップバッターはわたしです。どうぞよろしくね」
「じゃあ二時間後にまた集合ね! みんな楽しいデートをしよう! 目指せナンバーワン彼女!」
噴水広場の前でノリノリのひなわが号令をかける。
「趣旨が変わっているぞ。誰の彼氏が一番なのか決めるんだろう」
「細かいことはいいじゃん。やることは変わらないんだし」
「大雑把だな」
僕と美悠は、残りの三人と一旦別れた。
「よろしくね、
「エスコートできるようにがんばるよ。どこ行こうか?」
「そんなにかしこまらないで。わたしも特に目的もないから気になるお店があったら一緒に見よう」
美悠は柔らかい微笑を浮かべる。
その表情に僕の緊張も和らぐ。どうやら筒抜けらしい。
服屋に飲食店、各キャラクターのグッズショップ、靴屋、雑貨屋、おもちゃ屋、エトセトラ──多種多様なテナントが軒を連ねる。
僕らは気の向くままにウィンドウショッピングを楽しむ。
店先を覗きながら、話していると自然と距離は近づいていく。
「基月くん、あの服屋さんに入らない?」
「いいよ」
ウィメンズの服はメンズよりバリエーションがあり華やかだ。男性客の少なさに肩身の狭さを感じながら美悠の後についていく。
「わぁ、これ可愛い」
美悠は気になったワンピースを手に取り、身体に当ててみる。初夏を感じさせる爽やかな色合いは彼女によく似合っていた。
姿見の前で様々な角度から自分の姿を点検した末に「あー」と残念そうな声を漏らす。
「どうかしたの?」
「わたしの体型に綺麗に合う服って少ないんだよね。これはもう少しスレンダーな人向けだったみたい」
「そうなのか? 特に問題なさそうだけど」
肩幅や身幅を当てている感じでは、ちょうど良さそうに見えた。
「うーん、着ることはできるんだけどね。わたしはその、身長の割に胸があるから、胸の分だけスカート丈の位置が上がって見栄えが極端に悪くなるんだよね。最悪、下着がモロに見えちゃうかもしれないし」
「なるほど」
ワンピースを元あった場所へ返した。
「あ。このシャツは基月くんに似合うと思うよ」
彼女は持ってきたシャツをそのまま僕の胸の前に当ててみる。
「うん、サイズもピッタリ。素敵」
「よくサイズまでわかったね」
「わたし、お兄ちゃんがふたりいるからメンズの服のサイズ感もわかるんだ」
「僕に姉妹がいたところでウィメンズのサイズ感を把握できる自信ないな」
なるほど、美悠が末っ子というのは非常に納得だ。
いつの間にか美悠は次々と服を持ってきては僕の前に当てて、着せ替え人形のように楽しんでいた。
僕も気にいったシャツもあったが、お値段の問題や今日一日でどれだけ出費するのかわからないので見送ることにした。
途中、クレープを買って一休みする。休日で混雑していたため席が空いておらず、邪魔にならないところで二人並んで食べた。
「クレープなんて食べたのはいつぶりだろう。結構美味しいね」
「みんなで遊ぶ時はいつも甘い物食べているよ」
彼女は小さな口を一生懸命開けて頬張る。その姿はリスのように微笑ましい。
「あ、基月くん。口元にクリームついているよ」
指摘されて拭おうとするが、とれない。
「反対側。ちょっとジッとしてて」
彼女は手を伸ばして、僕の代わりにクリームをとってくれた。
「はい、綺麗になったよ」と美悠はそのまま指についたクリームを舐めた。
「え⁉」
「え? ……あ⁉ ゴメン、みんなと一緒の時の癖で、別に変な意味じゃないから!」
彼女は慌てて弁明したせいで一緒に自分のクレープごと振り回す。
「千木良さん、落ちちゃうから!」
僕の方も思わず彼女の手を押さえる。結果として手を握ることになってしまった。
「大丈夫だから」
僕はゆっくりと手を放す。
「「…………」」
ふたりとも黙って残りを食べていく。
あざとい。あざと可愛くて、どうすればいいか悩ましい。
もしも意図的にやっているのなら僕は軽い女性不信に陥るところである。
男という鈍い生き物にとってあざとい接し方はわかりやすくて効果抜群。
初心な男ならずとも簡単に恋に落ちかねない。
頭二つ低い同級生は隣で黙々とクレープを食べる。先ほどの恥ずかしさで身を縮こませており、余計に小さく感じる。その姿が庇護欲をかき立てる。
僕は残ったクレープを無理やり口に放り込んだので、指にクリームがついてしまった。ナプキンを貰いに店の方へ行こうとしたが、それより先に美悠がウェットティッシュを差し出してきた。
「よかったら使って」
「ありがとう。千木良さんは気が利くね」
「心配性なだけだよ」
なんでもないように言う。
「千木良さんからこんな風に優しくされると、男は変な勘違いしそうになるよ」
「別に、勘違いしてくれていいよ」
「え? だって彼氏がいるんじゃ……」
あまりにも露骨な思わせぶりな言い方に、僕は彼女の顔を覗きこむ。
目と目が合った。
彼女は、小さな悪戯がバレたこと子どものようにはしゃいだ笑顔を見せる。
「あれ、噓。みんなが恋人いるって言い出して、わたしも見栄を張っちゃったんだ」
彼女は上目遣いに照れていた。
「そりゃ、彼氏のイメージが浮かばないわけだ」
やっぱり僕の予想通りだった。
「怒った?」
「いいや。納得しただけ」
「もう少し別の感想が聞きたかったな」
美悠は頬を膨らませる。リスみたいだ。
「たとえば」
「安心したとか、嬉しかったとか、実はテンション上がったとか」
「それって……」
「だから、別に勘違いしても大丈夫だから安心して!」
彼女はもう一度僕に念を押してから、残りのクレープに集中した。
僕はといえば手持無沙汰で、最高に落ち着かない気持ちで横に立っていた。
彼女の好意がむずがゆくも嬉しい。ハッキリと言葉にしないのは奥ゆかしさか、それともあえてなのか。
いずれにしても、この感情を自分の照れで軽視はしたくない。
隣で美悠が食べ終わるのを待ちながら、僕は奥歯を噛み締めながらニヤケそうになるのを堪えた。
それから階を上がって、また色んなお店を見て回った。
そうして気づけば残り時間もあとわずか。
集合場所である噴水広場まで戻る途中で最後にキャラクターショップへ寄ると、彼女はあるキャラのキーホルダーを手に取った。お気に入りのものらしい。
「ねぇ、せっかくだから今日の記念に同じものを買わない?」
「同じものを?」
その意味について一瞬考えこんでしまう。
「だめ、かな?」
「いいよ。これくらいなら僕が出す」
「ダメだってば。ちゃんと自分の分は自分で払うよ。それに、この後にまだ三人も残っているんだから、基月くんのお小遣いがなくなっちゃうでしょう」
「男の懐事情まで察してくれるなんて、天使じゃないか」
祝。男に優しいギャルは実在した。
「そこまで誇張されると褒められた気がしないかな」
「じゃあ、お互いに買って相手にプレゼントするのでどう?」
僕の提案を美悠は喜んで受け入れる。
会計を済ませて店を出てからプレゼント交換をした。
審査員である僕は歩きながら、美悠とのデートを振り返る。
恋人ができたらこんな風に休日を過ごすのだろうというTHE定番デート。
千木良美悠という可愛らしい少女を独り占めできるのは男冥利に尽きるだろう。
楽しい時間は穏やかに流れながらも、ふいにドキッとさせられる瞬間が何度もあった。
「基月くん、お付き合いありがとう。すごく楽しかったよ」
「こちらこそありがとう」
「あと、わたしの噓はみんなには黙っていてね」
「わかった」
大人しそうに見えた彼女は意外とグイグイくる子であった。
そのギャップは実に刺激的だった。
☆☆☆☆☆
「次はアタシの番だね!」
一度全員で合流してメンバーチェンジ。
待ってましたとばかりに、火渡ひなわは僕を先導する。
連れていかれたのはサンシャイン通りのラウンドワンだった。
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