06.アストラル・コンバーター
シューゼはカプセルにそっと手を触れ、スキルを発動させる。
頭の中に流れ込んでくる、あまりに複雑な設計図。
「マキナ、ちょっと集中するから、静かにしててね」
「はい、マスター!」
シューゼは、これまでにない集中力で、カプセルの修繕に取り掛かった。
まずは、歪んで開かなくなっている扉からだ。
金属のフレームに手を当て、理想の形を強くイメージする。
理想接合のスキルが働き、ミシミシと音を立てながら、歪みがゆっくりと矯正されていく。
次に、扉を開けて内部の修繕に取り掛かる。
中には、何本もの細い管や、用途の分からない水晶のような部品が、ぐちゃぐちゃに壊れて転がっていた。
シューゼは【設計図想起】で見たイメージを元に、それらを一つ一つ、あるべき場所へと繋ぎ合わせていく。
パズルのピースがはまっていくような、心地よい感覚だった。
そして、最後に、傷だらけだったカプセルの外装を、スキルで磨き上げる。
表面の傷がすうっと消え、まるで鏡のように滑らかな、美しい金属光沢が姿を現した。
シューゼが、ふぅ、と息をついてカプセルから手を離した、その瞬間。
《――アストラル・コンバーターの修復が完了しました》
《リペアポイントを 20,000 RP 獲得しました》
《現在の保有RP: 45,800》
「あ、アストラル・コンバーター…………? なんだそれ……」
ウィーン……。
修繕が完了したカプセルが、静かな起動音を発した。
そして、ゆっくりと扉がスライドして開くと、中からふわりと、爽やかな花のようないい香りが漂ってきた。
「え……? なにこれ……」
カプセルの内部が淡い光で照らし出され、美しい陶器でできたドーナツ状の椅子が姿を現した。
(こ、これって、もしかして……と、と、トイレ……!?)
シューゼはそれがここに来てからやむなく野に帰していたものを処理できるものであることに気が付く。
さらに……、
(ちょ、ちょうど、さっきから催してんだよな……)
「あ、ごめん……。マキナ……。えーと……」
「はい! シューゼ様、どうぞ!」
シューゼは、おそるおそるカプセルの中に入り、その便座に座ってみる。
最高の座り心地だ。
そして、勇気を出して用を足してみた。
(ふぇえ……)
シューゼは解き放ち、すっきりとした表情で目を細める。
と、
(……あれ?)
ジョロロ……という音はしたが、便器の中には何も残っていない。
それどころか、用を足した瞬間に、シュン、と小さな光が走り、全てがどこかへ消えてしまった。
後には、ほのかな花の香りが残るだけ。
(えぇ……!? 消えた……!?)
そう、アストラル・コンバーターは確かにトイレであった。
しかし、ただのトイレではない。
汚物を完全に原子レベルまで分解・消滅させ、内部を常にクリーンに保ち、おまけに心地よい芳香剤まで生成してくれるというオーバーテクノロジーが詰まった、とんでもない究極のチートイレだったのだ!
「あ、マキナ、お待たせしました……」
「シューゼ様、いかがでしたか? アストラル・コンバーターは……」
「あぁ、最高だったよ……。アストラル・コンバーター」
カプセルから出てきたシューゼは、外で待っていたマキナに微笑む。
そうして、シューゼは予期せず最高級のアストラル・コンバーター(トイレ)をゲットするのであった。
◇
追放生活、四日目の朝。
シューゼはアストラル・コンバーターから戻り、すっきりとした表情で大きく伸びをした。
洞窟の中では、炎の杖が生み出した火球が静かに燃え、鍋の中では浄化された水が温められている。
(結構……悪くない生活だな……)
シューゼが、そんなことを思っていた矢先だった。
「マスター! 大変です!」
それまで楽しそうに尻尾を振っていたマキナが、突然、警告を発した。
オタマジャクシのような体の側面についた腕を、山の入り口の方角へと真っ直ぐ向けている。
「どうしたの、マキナ?」
「山の入り口付近に、強めの生命反応を探知しました。ですが、少し弱っているようですね……」
「えっ?」
(強めの生体反応……? なんだろう……)
「マスター、どうします?」
「……うーん、まぁ、ひとまず行ってみようか」
「承知しました!」
シューゼの言葉に、マキナはこくりと頷いた。
そうして、シューゼとマキナは反応のあった場所へと向かい始めた。
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