05.謎のカプセル

(なんだろこれ……とりあえず直してみるか……)


 シューゼは、その古びた木の棒に手を触れ、修繕を試みる。

 今回は修繕後のイメージが思い付かず、普段よりさらに意識を集中する。


 すると、いつもの思考加速と共に、シューゼの頭の中に、おぼろげなイメージが流れ込んできた。

 それは、目の前の古びた棒が、本来持っていたであろう輝かしい姿の映像だった。


(これがひょっとして……新しく手に入れた能力の【設計図想起】か……?)


 歪みのない、滑らかな木製の本体。

 緻密な彫刻が施されたグリップ。

 そして、先端にはめ込まれた、燃えるように赤い宝石……。


(これは……一体……?)


 何ができるかまでは分からない。

 だが、そのイメージは、これがただの棒ではないことをシューゼに確信させた。


 イメージに従い、シューゼは慎重に修繕作業を進めていく。

 欠けた部分を指でなぞると、光と共に木材が再生し、失われた装飾が浮かび上がる。

 ひび割れた先端部分を修復すると、小さな石が、美しい赤い宝石へと姿を変えていく。


 そして、全ての修復が完了した、その瞬間。


 シューゼの手の中で、杖がまばゆい光を放った。

 古びた木の棒は完全に消え去り、そこにあったのは、美しく、そして力強い一本の杖だった。


《――ブレイズ・ロッドの修復が完了しました》

《リペアポイントを 15,000 RP 獲得しました》

《現在の保有RP: 25,800》

《思考加速がLv.2にレベルアップしました》


 ============

 スキル:【修繕士】


 保有RP: 25,800


 能力一覧:

 思考加速 Lv.2 [Lv↑↑]

 (主観時間が2倍に引き伸ばされる)

 

 理想接合 Lv.1

 (小さなひび割れや傷を、イメージ通りに滑らかに塞ぐことができる)

 

 設計図想起 Lv.1

 (対象物の構造情報が、断片的な映像として流入します)

 ============


「ブレイズ・ロッド……炎の杖……?」


 シューゼは頭の中に響いた言葉を繰り返し、興奮を抑えきれずに杖を握りしめる。


「マスター、マスター! それ、すごいですね! なんだか、すごくアツアツな感じがします!」


 マキナも腕をパタパタさせながら、興味津々といった様子だ。


 シューゼは洞窟の中央に向かって、杖をそっと振るってみた。

 魔力を込める、といった難しいことは分からない。ただ、「火よ、出ろ」と念じるだけ。


 すると、杖の先端にはめ込まれた赤い宝石がカッと輝き、その先から、ぽすん、とラグビーボールほどの大きさの、暖かな炎が生まれ出た。

 炎は、まるで生きているかのように、空中にふわりと浮かんでいる。


「「おおーっ!」」


 シューゼとマキナの声が綺麗にハモった。


 王城にいた頃を思い出す。

 火の魔法は、【火魔道士】のような専門のスキルを持つ者だけが使える、貴重な魔法だった。

 スキルを持たない者が、こんなにも簡単に、意のままに炎を生み出せるなど、常識では考えられないことだった。


(この杖があれば……僕でも、魔法のようなものが使えるってことか……?)


 洞窟の中が、暖かな光で満たされる。


「すごいです! マスター! これで夜も明るいし、暖かく過ごせます! それに……!」


 シューゼとマキナは昨日修繕したばかりの鍋を火の上に置き、採ってきた木の実をいくつか入れて、炙り始めた。

 やがて、香ばしい、甘い匂いが立ち上ってくる。


 ◇


「う……う……」


 追放生活、二日目の朝。


 シューゼは体の節々の痛みで目を覚ました。


 洞窟の中は、炎の杖が生み出した火の玉が、静かに燃え続けて夜通し周囲を温めてくれていた。

 おかげで寒さは全く感じなかったが、寝床はガラクタの上に布を敷いただけ。

 硬い床のせいで、よく眠れたとは言えなかった。


(やっぱり、ちゃんとしたベッドが欲しいな……)


 そんなことを考えつつも、寝床よりも先に、確保すべきものがあった。


「マキナ、おはよう。今日は、飲み水を探しに行かないとな……」


 シューゼはつぶやく。と……、


「であれば、マスター! わたくしにお任せください!」


「え……?」


 拠点の洞窟を出た二人は、早速、水の探索を開始した。

 マキナが腕をかざし、なにやら周囲を探査している。


「ピピピッ! マスター、あちらのガラクタの山の奥。地下深くに、水の反応があります!」

「本当!?」


 マキナの案内に従って、二人はガラクタの山を分け入っていく。

 この作業が大変で、かなりの時間を要してしまった。

 やがて、ガラクタが崩れてできた天然の洞窟のような場所にたどり着いた。

 その奥の岩盤の隙間から、ちょろちょろと、しかし絶え間なく、見た目には清らかな水が湧き出ている。


「おぉ……」


 シューゼは修繕した鍋で早速その水を汲んだ。

 だが、口に運ぼうとして、はたと動きを止める。


(でも、これ、本当に飲めるのかな……?)


 生水を飲むことにためらいがあった。

 普通、水は必ず煮沸などの消毒をしてから飲むものである。


 シューゼが躊躇していると、


「……マスター、大丈夫ですよ」


「え?」


「この水は、大昔の『浄水プラント』で濾過されているようです」


(ほ、本当ですか……)


「どうして、マキナにはそれがわかるの?」


「……うーん、それがわたくしにもわからないのです!」


「へ……?」


「あ、そうだ、とりあえずわたくしが試してみましょう!」


 そう言うと、マキナは突然、発光し出し、例の姿に戻っていく。


(な、なんで元の姿に……!?)


「マスター……お手数ですが、ここに水を注いでいただいても……」


「えぇ……!?」


 マキナが指差したのは、二つのお胸が交わる箇所であった。


「な、なんでそこ……!?」


「まぁ、まぁ、いいじゃないですかー!」


(なにが……!?)


「……大丈夫だよ。僕が自分で試すから……」


「あっ……!」


 シューゼはぐぐっと水を飲む。


「…………うん、味とかは確かに変じゃないね。このままお腹とか痛くならないといいんだけど……」


 こうして、シューゼは「火」と「水」という、生命に不可欠な二大要素が確保できたのであった。


 ◇


 追放生活、三日目。

 シューゼは昨日確保した浄化された水と、炎の杖で炙った木の実やキノコで、ささやかな朝食を済ませた。


「よし、今日もガラクタ山にいこうかな……」

「はい、マスター!」


「火」と「水」を手に入れたことで、最低限の生命の安全は確保できた。

 次なる目標は、さらなる生活の質の向上と、そして何より――RP稼ぎだ。

 スキルを成長させれば、できる幅が広がるはずだ。


 シューゼはオタマジャクシの姿に戻ったマキナと一緒に拠点周辺のガラクタの山を物色し始めた。

 手頃な大きさで、面白そうなものをいくつか洞窟に運び込む。


「まずは、これからだね」


 シューゼは背もたれが折れた木製の椅子を修繕した。

 RPを100獲得し、これで食事の時に少しだけ楽ができる。

 次に、刃がボロボロの斧を修繕。

 RPを250獲得し、これで薪を集めるのも楽になるだろう。


 いくつか日用品を直していくうちに、シューゼは一つの事実に気づいた。

 どうやら、修復が難しいものほど、獲得できるRPも多いらしい。


「なるほど……。じゃあ、次は大物に挑戦してみようかな」


 シューゼがそう言って目を向けたのは、最後に残った、ひときわ奇妙なガラクタだった。

 それは、大人が一人、ようやく入れるくらいの大きさの、滑らかな金属でできたカプセル状の機械だった。

 表面は傷だらけで、扉らしき部分は歪んで開かない。

 一体、何に使われていたものなのか、全く見当もつかなかった。


 シューゼは、ごくりと唾を飲み込む。


「よし、やってみよう。【設計図想起】!」


 シューゼはカプセルにそっと手を触れ、スキルを発動させる。

 頭の中に、無数の部品が組み合わさっていく、複雑怪奇な設計図が流れ込んでくる。

 あまりの情報量に、一瞬、頭がくらくらした。

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