02.初めての修繕
ガラクタの山の麓は早朝。
ひんやりとした空気が漂っていた。
(……少しさむいな)
シューゼは思わず、自分の体をぎゅっと抱きしめる。
(ひとまず夜までには、どこか休める場所を探さないと……)
シューゼは震える足でガラクタの山へと分け入っていく。
足元は不安定で、一歩進むごとに金属の擦れる嫌な音が響いた。
(どこか、雨風をしのげる場所は……)
シューゼが必死に周囲を見渡すと、少し開けた場所に、ひときわ巨大な機械の残骸が転がっているのが見えた。
何かの乗り物だったのだろうか。
その側面には、大きな亀裂が入っていた。
(あそこなら……!)
シューゼは亀裂に体を滑り込ませた。
中は、思ったよりも広く、洞窟のようになっていた。
外の風が完全に遮断され、少しだけ暖かい。
「ふぅ……」
ひとまず今夜の寝床は確保できたことに、シューゼはほっと息をついた。
壁に背中を預けて座り込むと、どっと疲れが押し寄せてくる。
同時に、強烈な空腹が襲ってきた。
シューゼは母親の肖像画と一緒に入れていた、最後の黒パンを取り出す。
石のように硬いそれを、少しずつ、少しずつかじった。
これがなくなれば、もう食べるものはない。
(これから、どうしよう……)
これからのことを考えると、胸が不安で押しつぶされそうになる。
食べ物は? 飲み水は?
一人で、どうやって生きていけばいいのだろう。
その時だった。
洞窟のようになった空間の、さらに奥。
ガラクタの隙間から、何かがチカ、チカ、と周期的に光を放っているのが見えた。
(ん……? あれ、なんだろう……?)
不安よりも、好奇心が勝ってしまった。
シューゼは吸い寄せられるように立ち上がり、光の源へと近づいていく。
ガラクタを少しどかすと、そこにあったのは、複雑な模様が刻まれた、パズルのような球体だった。
光は、その球体の中心から漏れている。
まるで、呼吸をするかのように、弱々しく、しかし確かに、光り続けていた。
シューゼは、その不思議な球体に、完全に心を奪われてしまった。
それは、子供の頭ほどの大きさで、表面には幾何学的な模様がびっしりと刻まれている。
まるで、極めて精巧な、金属製のパズルか何かのように見えた。
チカ……チカ……。
中心から漏れる光は、命の灯火のように弱々しい。
シューゼは、さらに近づいて、その球体をじっくりと観察した。
(あ……ここ、壊れてる)
球体の一部がへこみ、パズルを構成していたはずの部品がいくつか外れて、近くに転がっていた。
おそらく、高い場所から落ちたか、何か強い衝撃を受けたのだろう。
光が弱々しいのも、きっとそのせいだ。
その瞬間、シューゼの心に、抗いがたい強い衝動が湧き上がった。
(直したい……!)
この、壊れてしまった美しいものを、元の姿に戻してあげたい。
王都にいた頃、壊れたおもちゃや道具を夢中で直した時の、あのワクワクする気持ちが蘇ってくる。
チカ……。
目の前の光が、ひときわ弱く、そして小さくなった。
まるで、助けを求めるかのように。
このままでは、本当に光が消えてしまいそうだった。
(……助けてあげたい)
気づけば、シューゼの心は決まっていた。
もう、追放された身だ。何をしても、誰にも咎められることはない。
なら、いいじゃないか。
(僕が、これを直したって、誰も困らない)
目の前で消えかかっている、小さな光。
それを見過ごすことなんて、シューゼには到底できなかった。
シューゼは、ごくりと唾を飲み込む。
そして、意を決して、その不思議な球体へと、そっと手を伸ばした。
ひんやりとした金属の感触が、指先から伝わってくる。
(これを、直したい)
ただ、そう強く願った。
すると、シューゼの体に不思議な変化が起こり始めた。
まず、周りの音が、やけにゆっくりと聞こえるようになった。
自分の心臓の鼓動だけが、やけにはっきりと、そして力強く感じられた。
(あれ……? なんだか、周りがゆっくりに見える……?)
不思議な感覚だったが、今はどうでもよかった。
シューゼは球体のそばに転がっていた金属の部品を、一つ手に取る。
そして、それが元々あったであろう場所へと、ゆっくりと合わせようとした。
その瞬間。
シューゼの手と球体が淡い光を放った。
光に包まれた部品は、まるで磁石のように、あるべき場所へとすっと吸い寄せられる。
カチリ、と心地よい音がして、部品は寸分の狂いもなくはまった。
同時に、部品の周りにあった細かな傷やへこみが、光に溶けるように、すうっと消えていく。
「すごい……」
思わず声が漏れた。
(傷が消えた……?)
シューゼは興奮に胸を躍らせながら、次の部品を手に取った。
(ここを、こうして……。この欠片は、こっちだ……)
夢中だった。
時間の感覚も、自分が置かれた境遇も、全て忘れて、ただ目の前の作業に没頭していた。
一つ、また一つと部品をはめていくたびに、球体は淡い光を放ち、その輝きを取り戻していく。
(楽しい……)
心から、そう思った。
これだ。これが、自分が一番やりたかったことなんだ。と……。
そして、ついに最後の一個をはめ込んだ、その時。
球体全体が、これまでで最も強く、そして優しい光を放った。
表面の幾何学的な模様が、まるで生きているかように脈動し、完全に一体化した美しい球体へと姿を変える。
(やった……。直った……)
シューゼが達成感に満たされた、その瞬間だった。
《――修復が完了しました》
頭の中に、直接、声のようなものが響き渡った。
(え……?)
《リペアポイントを 5,000 RP 獲得しました》
シューゼが呆然としていると、目の前に、半透明の画面のようなものが現れた。
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スキル:【修繕士】
保有RP: 5,000
能力一覧:
思考加速 Lv.1
(主観的な時間が1.5倍に引き伸ばされる)
理想接合 Lv.1
(小さなひび割れや傷を、イメージ通りに滑らかに塞ぐことができる)
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(これが……僕の、スキルの力……?)
シューゼが目の前の情報を呆然と見つめていると、
目の前で宙に浮かんでいた美しい球体が、カシャリ、と音を立てて変形を始めた。
球体の表面が滑るように展開し、中からいくつかの部品がせり出してくる。
それらは、まるで精巧なオブジェのように、あっという間に組み上がっていく。
(え……? なにこれ……?)
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