第18話 終詠

「【爆発】〜!」


 連射速度無視ブレイクリミッターをかけた銃による横方向への薙ぎ払い。着弾した魚が爆発する。

 その爆風に巻き込まれ、数体が消し炭になった。


 今は押している様に見えるが、ユウナ曰く呪力排出が出来ないためすぐに切れるとの事だ。フルで撃って1分保てれば良い方らしい。


 シャオルは、遥か上空に陣取ってこちらを見下している。それに付随して鯨も周りをウロウロとする。

 …それに、さっきから鮫と鯆は銃弾と爆風を避けて空を泳いでいる。雑魚は割と削れているが、まだまだ数は残っているな。


「【鎖撃】」


 一応攻撃を仕掛けてみるが、シャオルに飛ばした鎖は鯨の出した障壁によって塞がれ、途轍もない速度を伴った鮫に破壊された。遠くから俯瞰している鯆が、鮫に甲高い声で吠えている。


 なるほど。

 恐らく、鯨は防御に特化しているのだろう。先程からユウナの弾丸も的確に防いでいる。同様に鮫は攻撃特化。そして…通常の鮫がそこそこのスピードしか出ていない事から、鯆はバフをかける支援特化なのではないだろうか。


 他の魚群とは違う特殊な力を持ったもの達。先に始末しないとシャオルに攻撃は届きそうにない。


「ユウナのお陰で雑魚は殆ど居なくなってる。けど、この後ユウナはしばらく動けない」


 なら、弾丸の雨が切れると同時に——


「もう限界だよ〜!」

「了解。【鎖状鞭】」


 瞬時に飛び出す。

 鎖で作った鞭を振い、残りの雑魚を切り落としながら進む。


 鯨はシャオルを護るのに尽力している。あの場から動かない以上、倒すのは後回しだ。となると、攻撃役の鮫か支援役の鯆…。


「まずは君から」


 自分が狙われていると感じたのか、キンキンと叫び声を上げ距離を取る鯆。鎖を顔に向けて飛ばすと、バフによって強化された鮫が突っ込んで鎖に噛み付いた。

 だが——


「それを待ってた。【影縫】」

「!?」


 鎖に噛み付いたことで速度が落ちた鮫は、低速の【影縫】すら避ける事が出来なくなる。

 そのまま鎖が巻き付くのを横目に、もう一度【鎖状鞭】を振るって鯆を貫く。頭を潰された鯆の身体が、地面に向かって落ちて行った。



「はい、これで終わり。【火罰の環鎖】」


 じわじわと、鎖が熱を持ち始める。…これまでこいつらは、どれだけ人を殺して来たのだろう。どれだけ罪を犯して来たのだろう。その罪が、私の頭に流れ込んで来る。


 遥か昔から、破壊の限りを尽くして来た。その群れは地を荒らし、他の生物を淘汰して来た。キリキリと鎖の軋む音に、燃える音が混じる。


 火を帯びた鎖が、鮫の肌を焼く。焦げた臭いが充満し、空気に流れる。やがてその火は、鮫の身体を炭の塊に変えた。


「さて、後2体」


 今まで沈黙を貫いたシャオルが、空に向かって吠える。それに応える様に、鯨も咆哮する。その瞬間、無数の障壁が現れた。


「さっきから数が多いな…今度は障壁の質量攻撃か」


 私を押し潰そうとする障壁を避ける。幸い速度はそこまでない。本当にこの鯨は防御に特化しているらしい。


「【⚪︎。◎⚪︎。】」

「…まじか、これは避け切れ——」


 空に大量の泡が現れ、雨の様に地面に降り注ぐ。

 空を飛ぶ鳥が泡に触れて消滅した。

 降る泡が私に触れる一瞬、衝撃が泡とぶつかり消滅する。


「これで最後〜!ヨモギ、チェンジ!【狙撃銃スナイパーライフル】!」


 ユウナが叫ぶと、銃がグニャグニャと形を変化させ、小型の銃から大型の狙撃用銃へと姿を変えた。あれが呪銃とヨモギの能力?


 深く息を吸ったユウナは、片目を閉じ、私の直線上に銃口を向ける。

 息を吐き出しトリガーに指を。そして——


「これはおまけだよ〜。【空溺】」


 放たれた弾丸は、空気を押し除けて進む。衝撃波が泡を散らしながら、シャオルの背後に居る鯨の喉元を正確に撃ち抜いた。


 着弾した鯨は、しばらくその場で旋回した後身体を硬直させて苦しみ出した。ジタバタとのたうち回り、ゆっくりと動きを止めた。


「【空溺】は相手を空気で溺死させる呪いだよ〜。海洋哺乳類の最後は殆どが溺死らしいし〜、キミにはお似合いの最後かな〜?」

「…ユウナ、ヨモギ。ありがとう」


 これで、あいつを倒す準備は整った。


「【鎖撃】」


 地面から鎖を生成し、勢いに乗って跳躍する。部下を失ったシャオルは、未だ何も映さない虚な目でこちらを見つめていた。


「ユウナ達には無茶をさせたからね。私も無茶しないと」


 鎖を生成し、自身の肩に突き刺す。

 さらに大量の鎖を生成し、シャオルの身体にも突き刺して行く。シャオルの肉体はかなりの強度を持っているが、この技の前ではそれは意味を成さない。この鎖は、この時間には"存在"しない。


「時間を断つ鎖は、あなたを時間の牢獄に閉じ籠める。【終詠エクシリウム——】」


 シャオルに刺さる鎖が震え、空間を切り裂く。

 立体に切り抜かれた空間が、シャオルを取り囲んだ。


「【鎖罰の少女エクス・クラウストラ】」


 指を鳴らすと、空間の裂け目は歪み、シャオルの身体を引き摺り込む。無数の触手が抵抗しようと伸びるが、裂け目に阻まれて行動が出来ないままシャオルは虚空に消えた。


「さようなら。永遠に止まった時の中で——」


 空気が吸い込まれ、強風が吹き、煙が立つ。

 轟音を立てて、シャオルを飲み込んだ裂け目は空間を修復していった。


 後に残ったのは、全てが無くなった空だけであった。

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