第15話 血の狂人
「あはっ!やっぱりキミ、強いねぇ!全力でやり合えるなんてぇ…わくわくしちゃうなぁ♡」
「…くっ」
キリキリと拮抗していた鎖が、大鎌に弾かれる。流れのまま振り下ろされる大鎌の刃を蹴りで受け止め、そのまま刃を蹴って飛び退く。
…少し斬られたか。
セリアは鎌に付いた血を拭い取ると、自らの口に入れて恍惚とした表情をした。
「おいしぃなぁ♡もっと、もっとちょうだい?キミの血ぃ♡」
自分の身長ほどある大鎌を器用に振り回し、肩に担ぐ。一度口角を吊り上げてから、瞬時に距離を詰めて来る。
縦に真っ直ぐ振り下ろし。
切り返して上への切り上げ。
そのまま斜めに袈裟斬り。
鎌を支柱とした蹴り。
息を吐く暇も無い波状攻撃が、私の手足や胴体を執拗に狙ってくる。そういえば、今まで強力な攻撃をされて来たが、首や心臓などの致命的な部位は狙われていない様な…。
「…あなた、手を抜いてる?」
「…あはっ♡なんでそう思ったのかなぁ?」
「逆に聞くけど、なんで致命傷を狙わないの?あなたの攻撃はほとんどが手足を狙ってる。まるで私を痛めつけたいみたい」
その言葉を聞いたセリアは、紅い目を見開いて狂気的に笑った。
「…だってぇ、痛みは幸せでしょぉ!♡痛みはあたしを強くしてくれる!痛みはあたしをキモチヨクしてくれる!痛みはあたしを救ってくれる!きゃはっ!!」
「私が言うのも何だけど、あなたおかしいよ」
「なにがぁ?キミもキモチヨクなりたいでしょ?…あたしが、キミに痛みをあげる♡【血槍】ぉ!きゃはっ♡」
セリアが大鎌を肩に乗せ、柄を両手で持つ。大鎌を横薙ぎに力強く振るうと、その軌跡上に赤黒い斑点が現れる。斑点は徐々に膨張し、すぐに槍の形に姿を変えた。
「言ったでしょぉ?♡キミの血ぃ、ちょうだい?」
その言葉と同時、血の槍が私目掛けて飛来した。数は10本。一応反撃を試みる。
「【鎖撃・連】」
影から現れた鎖が、血槍に向かって飛ぶ。半分は正面からぶつかり対消滅したが、残りは互いに身体へと向かった。
飛んで来た槍を避けると、血槍は地面に突き刺さってただの血液に戻った。
「血…あなたの異能?」
「あはっ!せいか〜い!私の異能は『血液操作』。街では使えなかったけどぉ♡、ここなら本気でヤレるよぉ!【赤鎌】っ!」
また技を発動すると、セリアの大鎌に2つの血の刃が追加された。単純に攻撃範囲が広がる感じか…面倒臭いな。
私を捕捉したセリアは、更に速度を上げて切り掛かってくる。3枚刃による斜めの攻撃を鎖で防ごうとするが、バラバラに断ち切られてしまった。
すぐさまその場から離れたが、バランスを崩した拍子に一瞬地面に倒れかける。咄嗟に地面に手を付いた後、そのまま押して立ち上がり新たな鎖を生成する。
「なるほど…攻撃範囲だけじゃ無くて威力も上がるのか」
遠距離、近距離どちらにも対応したかなり強力な異能だ。何か弱点は…セリアの言葉を思い出せ…。
セリアは何と言った?確か…。
『街では使えなかったけどぉ♡、ここなら全力でヤレるよぉ!』
街では使えなかった?使"わ"なかったじゃなく?
霧煙の街リュメルナは、街全体が霧で覆われた街だ。確か昨日戦った時に…そうか。
「血が霧に溶けるのか」
「あはっ♡そこまで分かっちゃったのぉ?すごきねぇ!」
だから街では使えない。使わないんじゃ無く使え無いのか。多分セリアが操れるのは純粋な血だけで、霧で希釈された血は成分か何かが分解されて操る範疇から外れるんだ。
だとして、私じゃ血を薄める方法なんて——
「カデナちゃ〜ん。こっちは終わったよ〜」
「!ユウナ…あ」
そうだ、血を操れなくするには、純粋な血じゃ無くせば良いんだ。そしてそれは、呪いを操るユウナならきっと出来るはず。
「ユウナ。物体に呪いをかけるって、出来る?」
「んぇ〜?出来るよ〜?全然使う場面は無いけどね〜。物に使う場合は、生き物と違って呪い返しも無いから楽だよ〜」
セリアの異能を封じる事が出来るなら、やってみる価値はあるはずだ。
「ユウナ、耳貸して」
「何〜?えへっ、くすぐったいよ〜」
「殴るよ?黙って聞いて」
なぜかクスクスと笑うユウナに作戦を伝える。
作戦を聞いたユウナは一転して真剣な顔になると、しばらく考えた後言った。
「出来ない事はないけど、それはだいぶ複雑になっちゃうね〜。その分時間がかかるかも〜」
「どのくらいかかりそう?」
「多分…15分くらいかな〜?」
「15分ね。儀式とやらがどのくらいかかるか分からない以上あまり時間はかけられないけど…」
やってみるか。
「分かった、セリアの相手は任せて」
「ん〜。じゃあ作戦開始だね〜」
「あはっ、作戦会議終わったぁ?あたしも補充はばっちり!丁度良いタンクがいっぱいあるからねぇ♡」
何かしている様子だったから警戒はしていたけど、これと言って目立った動きはなかった。
思わず眉を細めると、セリアの顔が笑った。
「正確にはまだ補充終わって無いけどねぇ。せっかくなら見せてあげるよぉ!【逆流】♡」
そう言ってセリアが人差し指に口付けをした瞬間、辺りを漂っていた魚達が一斉に爆ぜた。
正確に言うなら、魚達の目から血が流れ、衝撃で肉片が飛び散ったと言うべきか。飛び散った血の臭いが辺りを支配する。
「血だらけだぁ♡あはっ!
やられた。
血を操る異能の前で、血のフィールドを作らせてしまった。絶望的状況の中、セリアの甲高い笑い声が教会に木霊していた。
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