第1話:フードファイトは突然に
とある漁港、対岸の人工都市の
一人は黒い割烹着を着た豚鼻の益荒男である大男、黒い長髪を夜の潮風に靡かせ、肥え太った腹筋を露わにした。
「この豚カツ専門店の中でも群を抜く【黒勝亭】の店主たる『
もう一人は白い割烹着を着た、相手より一回り小さく、猫背で身の丈より大きい麺棒を担ぐ老人、枯れ木のような筋肉には確かな力強さと白き肌の艶が見えた。
「うどん店【白讃岐】を切り盛りして、早八十年。この『
老いながらも快活に笑う越雄に対して、勝繁は睨み返す。
互いに緊迫した雰囲気に晒される中、最初に均衡の沈黙を破ったのは麺棒を翳した越雄だった。
その腕からコシの強いうどんの触手を次々と伸ばし、勝重に迫る。
うどんの麺。蕎麦やラーメンよりも固いながら、柔らかい歯応えがあるのは足で生地を踏み、コシを増させているからであり、麺の中で唯一、強度に対する修練を得た麺界随一の重戦士である。
その麺が攻撃に使えれば、萎やかな変幻自在の軌道と太い威力を誇る大鞭のようであり、その攻撃は回避不可能である。
それに気付いた勝重は両腕を構え、防御し、白く太いうどんの触手に打たれた。
「ほっほっほっ、どうじゃ、儂のうどんのコシの強さは。」
「ああ、強すぎるぜ、コシが強すぎて、喰えたもんじゃねぇな!」
土埃が晴れ、勝重の身体を見れば、その身体中に刺々しくも、龍鱗のようなパン粉の厚く硬い揚げ衣を纏い、うどんの触手の強打を受け止めていた。
とんかつ。フランス料理の"
肉の中で硬い豚肉を更にサクサクの分厚いパン粉の揚げ衣を纏うその防御力、尋常ではない。
「ほほう、分厚過ぎるのう。衣が厚すぎて、肉感が落ちるのではないかのう?」
「俺の豚肉は半端じゃねえ、戦いはこれからだ!」
「儂をただ老耄だと侮るなよ、若造!」
二人の戦士がぶつかり合おうとした瞬間、二人の間に割って入るかのように巨大なパンケーキに阻まれ、衝突の衝撃を半減した。
「なっ、何!?」
「なんじゃ!?」
「お二人さん、無駄な私闘はここまでよ。」
パンケーキ。薄いクレープ状の英国風や厚いアメリカ風に分かれるが、最近ではハワイアンパンケーキが流行の最先端として長く愛されるスイーツ界の
雲のように深く、柔らかいスポンジは凡ゆる攻撃を分散する。
「御主は何者じゃ!?」
颯爽と現れたのは、ハイビスカスのヘッドホンを被り、水色のハワイアンドレスを着飾った金髪のツインテールと翡翠の瞳を持ち、青いローラースケートで滑る16歳くらいの少女だった。
「アロ〜ハ〜、私は【オハナカフェ】の看板娘、『レイ・カイラニ』よ! よろしくね!」
「おい、嬢ちゃん! 漢同士の勝負に水を差しやがって、どうしてくれるんだ!」
「この老人をおちょくるのも大概しなさい!」
「まぁまぁ、こんな事をするよりも、いい提案があるの! 私達が手を組んで、世界をひっくり返して…あの独裁企業を倒さない?」
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