第8話 アバロンとフィジカルテスト
セントラル中央区の喧騒を抜け、ジョージは夜の帳が下り始めた中、
《T-Forge》の鍛冶工房へと足を向けていた。
(そういえば、テディ―が閉店前に来いって言ってたな。そろそろ約束の時間なはずだ)
雑多な屋台やホログラム広告が溢れる通りを抜け、少し奥まった裏通りに入ると、
そこにはどこか懐かしさを感じさせる重厚な金属製の看板──
《T-Forge》が青いネオンで静かに光っていた。
入り口のドアが自動で開くと、鋼鉄とオイルの香りが混じった空気が流れ込んでくる。
昔、メカニックアニメに夢中になっていた頃の記憶が、一瞬フラッシュバックのように蘇る。
「おう、来たか。待ってたぞ」
カウンターの奥から現れたのは、相変わらず筋骨隆々でヒゲを蓄えた職人、テディ―だった。
「昼はずっとこいつの仕上げにかかりっきりだったぜ。
お前の筋肉構造と骨格比率、前回来た時にこっそりスキャンしておいて正解だった」
彼が背後の保管ユニットから慎重に引っ張り出したのは──まずは全体が漆黒に染まり、
表面に青い雷紋が常時走っているような巨大な盾だった。
それは生きているかのようなわずかな振動を放ち、周囲の空気をわずかに揺らす。
まるでSFとファンタジーを掛け合わせた不思議な魅力があった。
「《アヴァロン》。ブラックメタル合金を贅沢に使った試作モデルだ。
中心部にはフォノンコアを仕込んであって、
衝撃を蓄積して衝撃破として放出するギミックを搭載してる」
──鑑定──
【アヴァロン】
種別:ブラックメタル合金製エネルギーシールド(試作型)
耐久値:S−クラス(従来比+12%)
特性:衝撃吸収チャージ×3回(チャージ時は攻撃無効)
重量:通常の8倍(フォノン補助による負荷軽減機能付き)
続いて取り出されたのは、黒曜石のような光沢を持ち、
関節部には透過素材を用いた手甲型のガントレットだった。
「こっちは《グラビティ・ナックル》。骨格連動と接触圧縮機構をさらに強化してある。
カウンター時の爆発力は軍用モデルを超えてるぜ。
拳部分にはブラックメタルの削片を埋め込んでて、視覚効果も抜群だ」
これにもジョージは鑑定を使用した。
【グラビティ・ナックル】
種別:重圧制御ガントレット(試作型)
攻撃補正:+55%
特性:骨格追従制御、接触圧縮、衝撃吸収、カウンター時の圧縮エネルギー倍化(最大2.5倍)
補助機能:反応遅延補正、内蔵バランサー
ジョージはそれらを静かに受け取り、装着してみる。
装備は一瞬で身体にフィットし、呼吸のたびにわずかな気圧変化を感じ取れるほど精密だった。
「……この収まり具合、完璧だな」
数歩後退し、踏み込みと共に拳を突き出す。
空気を裂くような風圧がガントレットの周囲に走り、内部で微かにフォノン共鳴が起きる。
「まるで自分の手そのものだ。これは……いい」
「へっ、目が肥えてやがるな。けどまあ、壊すなよ?修理は高いぞ」
ジョージはそのままインベントリ端末を起動し、新たに装備を登録する。
戦闘用装備セットとして登録を終えると、光粒子が装備を包み込み、
盾とガントレットが転送収納された。
「おい、またか……あいかわらず奇妙な光景だな……」
「戦闘用装備として登録した。普段は収納してあるんだ。街中じゃ異様すぎるだろ?」
「……その能力のほうがよっぽど異常だぞ、どこでそんな技術覚えたんだ......
最初はてっきり素人の志願者かと思ってたが、お前には期待できそうだな」
テディ―は興味深そうに腕を組んで唸った。
「じゃあ、また来るよ。今度は修理じゃなく、強化の相談ってことで頼む」
ジョージは笑いながら手を振り、《T-Forge》を後にした。
──翌朝。
カプセルホテルで簡単に身支度を整えたジョージは、アライアンス中央棟の試験施設へと向かった。
建物は完全自動制御の警備ゲートに囲まれ、入場時には身元認証スキャンが行われる。
光の回廊を通り抜けるたび、彼の中に緊張感が静かに芽生えていく。
中には既に多くの志願者たちが集まり、各自の番号を呼ばれるのを待っていた。
控室では、さまざまな種族の志願者が準備に入っており、筋トレに励む者、瞑想する者、
武器を整備する者など、その光景はまるで宇宙の縮図だった。
ジョージは周囲を見渡し、何人かの志願者の武装が高度にカスタマイズされていることに気づく。
特に、マキナ出身と思われるボルツ族の少年は、自分の身長ほどの折りたたみ式ドローン・キャノンを肩に担ぎ、ルミエル族の女性は透き通るような水晶製の杖に青い魔力の波動を宿していた。
「……装備レベルが想像以上だな。俺みたいな新参者には荷が重いかもしれんが、やるしかない」
壁際のディスプレイには、試験概要とともに
「フィジカルランクの説明」がホログラム表示されていた。
フィジカルランク表
評価:1〜2 一般以下
備考:医療・福祉のサポート対象
評価:3 一般市民基準
備考:生活に支障のない基本ライン
評価:4〜5 軍・警備基準
備考:軍属・治安維持に必要な基準
評価:6〜7 戦闘向き高水準
備考:特殊部隊・精鋭部隊向け適性
評価:8〜9 超人的スペック
備考:遺伝強化・義体改造の可能性あり
評価:10 記録上未確認
備考:理論上の限界値
試験官が姿を現し、通達が下された
「まもなく、フィジカルスキャンを実施する。順に名前を呼ぶので、呼ばれた者はスキャンルームに入れ」
「セト・ジョージ、フィジカルスキャンへ」
案内に従い、ジョージはスキャン室へと足を踏み入れる。
白い立方体の部屋に入り、中央のリングに立つと、微細な光粒子が全身を走査していく。
耳の奥で低い電子音が鳴り響き、微かに身体が暖かくなる感覚があった。
【フィジカルランク:6】
【筋力:A】 【反応速度:B+】 【耐久性:S】
外部の技術者たちがざわめく。
「ランク6……市民では異例だぞ」
「この耐久性、軍人クラスだ」
控室へ戻ると、他の志願者たちがちらりと視線を送ってくる。
さっきまで興味を示していなかった者たちが、何かを測るような目でジョージを見つめていた。
「6って聞こえたぞ……マジか?」
「人間でもあそこまで出せるのか……」
一人のルミエルの青年がジョージに近づいてきた。
長い銀髪と深緑の瞳を持ち、柔らかな微笑を浮かべていたが、その奥には鋭い観察眼があった。
「おい、セトって言ったな。お前、どこの部隊出身だ?まさか新兵ってわけないよな」
ジョージは苦笑を浮かべながら答える。
「いや、新兵どころか、志願者としては今日が初日だ」
「……冗談だろ!お前面白いな。実技も楽しみにしてるぜ」
そう言って青年は去っていき、試験場のドア前に並び始めた。
──間もなく、実技試験が始まろうとしている──
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