第7話 誘拐事件と赤い影
セントラル中央区──未来的な建築物が立ち並ぶこの都市の中心で、ジョージは浮遊歩道の上から広がる光景を眺めていた。
全天候ドームに覆われた空は微かに虹色の光を反射し、上空にはホログラム広告と多脚メンテナンスドローンが飛び交っている。
(まるで映画の中みたいだ……だが、これは現実だ)アライアンスの試験を翌日に控え、ジョージは装備を整えるまでの時間を街の探索に費やしていた。
その時、広場の情報端末に映し出された緊急速報が目に入った。
『中央区周辺にて連続誘拐事件が発生。犯人は複数人とみられ、現在調査中』
(……物騒な話だな)
疑念を抱きつつ歩き出したジョージだったが、しばらくして背筋をなぞるような違和感を覚えた。
「……つけられてるな」
視線、間合い、足音のリズム──すべてが不自然なほど整っている。
ジョージは歩調を崩すことなく、あえて裏通りへと足を向けた。
昔秋葉原と呼ばれていたというこの一帯には、古びたビルや裏道が入り組んでおり、周囲の喧騒も届きにくい。
案の定、角を曲がった直後──黒装束の男が姿を現した。
続いて、両脇の建物の陰からも二人、合計三人が現れる。
「ずいぶん堂々とつけてきたな」
「黙ってついてきてもらおうか」ナノマスクに隠された声には迷いがなかった。
全員が細身のブレードを展開し、ジョージを囲むように前進する。
「なるほどな。誘拐犯ってわけか」
一瞬の静寂の後、三人が同時に動いた──が、ジョージは一人目のブレードをかわし、逆に肘打ちを叩き込む。
「遅いッ!」
反動で吹き飛んだ男を盾に、二人目の突進を制止、カウンターで叩きつけた。
三人目の男は躊躇いなくその場を離れ、逃走を始める。
「おい、逃がすかよ……!」ジョージはすぐに後を追った。
街中を駆け抜ける2人の間をすり抜けるように、ホバーカーやドローンが飛び交う。
ジョージは走りながら、通りがかった警備ドローンに向けて叫んだ。
「この男は誘拐犯だ!中央警備に通報してくれ!」ドローンが赤く点滅し、追跡モードに入る。
やがて男が駆け込んだアジトらしき場所に到着する。中央区から少し外れた旧倉庫群──現在は廃墟として放置されているエリアだった。
(ここがアジトか)建物に潜入すると、内部は思いのほか整然としていた。
機材の残骸やクレートが並ぶ中、ジョージは奥の一角で──椅子に拘束された複数の人物を発見する。
「……まさか、本当に」その瞬間、物音がして奥から黒装束が6人、連携した動きで現れた。
「侵入者だ、始末しろ!」ジョージは即座に左手を掲げ、スキルプリセットを切り替える。
《戦闘モード:展開》ピリリと音を立て、彼の身体に電磁的な光の回路が走り、服装の一部が変形するようにして戦闘用の重装鎧と大型盾が出現する。
「なっ……!?」敵たちが一瞬ひるむ。
その隙に、ジョージは戦闘体勢に入った。
──その瞬間、どこかから鋭く重い視線を感じた。
(……何だ、今の視線)気配は遠く、しかし明確にこちらを見据えていた。
だが、その主はまだ姿を現さない。
「いくぞッ!」全員が武器を構え、襲いかかってくる。
ジョージは即座にガードを固め、前衛の一人を掴みあげて床に叩きつける。
(数が多い……だが、いける)回避と打撃を繰り返しながら、1人ずつ確実に無力化していくジョージ。
だが、敵もただの素人ではなかった。
「くっ……このままじゃ……!」追い詰められた一人が拘束された人間にブレードを向ける。
「動くな!こいつを──」
「させるかッ!」ジョージのスキル《ヘイトコントロール》が発動。
突如として敵全員の視線がジョージへと向く。
「てめえ……何をした……!」その隙を逃さず、ジョージは敵陣に突っ込み、攻撃を避け渾身のカウンターを叩き込んだ。
あっという間に残りの敵も地に伏す。
(……終わったか?)その瞬間だった。
廃墟の奥の影から、もう一人の男が姿を現した。
ジョージは反射的に構える──しかし、相手は一歩も動かない。
その目だけが、赤く──不気味に、光っていた。
(……さっきの視線の主、こいつか)無言のまま男は一歩踏み出す。
ジョージの皮膚がざわつく。
その時──背後からサイレンと共に警備部隊が突入してきた。
「手を挙げろ!動くな!」
赤い目の男は一瞬ジョージを見つめ──次の瞬間、影のように姿を消した。
「……消えた?」
――LEVEL UP:Lv12――
戦闘後にレベルアップアナウンスとともにステータスが上昇する。
「ジョージ!大丈夫か!?」駆け寄ってきたのはマーティンだった。
ジョージは一瞬深呼吸し、すぐに拘束されている人々へと駆け寄った。
「安心しろ、もう大丈夫だ」ナノコードの拘束具を解除しながら、一人ひとりの安全を確認していく。
──そして全員の解放が終わった後、ジョージはマーティンに向き直った。
「……誘拐されてた人たち、誰なんだ?」マーティンは顔をしかめつつ答えた。
「詳細はこれからだが、現場で確認された身元の一部は……元軍人や科学者、護衛官などらしい。一般市民というよりは、特定分野で優秀な人間だ」
「……なぜそんな連中が狙われる?」
「わからん。お互いの接点はなさそうだ。金銭目的の可能性もある」
ジョージは一瞬黙り、視線を伏せた。
(……金銭目的?それにしてはあまりに統制が取れていた。
標的の選定にも意図を感じる)
「それと……首謀者らしき男を見た。顔はマスクで隠れてたが……目が、赤かった」
「赤い目……?」マーティンは眉をひそめた。
「警備が来た瞬間に姿を消した。何かが、普通じゃなかった」
「……わかった。記録は残しておく。君のおかげで救出は成功した、本当に感謝する」「これで二日連続で警備隊と行動を共にしてるな。
ジョージ、もしかして正式に入隊する気があるんじゃないのか?」
「どうだろうな……逆にお前らが俺を必要としてるんじゃないか?」マーティンは笑った後、真剣な表情で手を差し出した。
「今日の件は、君の勇気と判断力がなければ犠牲者が出てたかもしれない。
中央警備隊を代表して、礼を言う」ジョージはその手を握り返す。
「……ああ。俺にできることがあるなら、遠慮なく言ってくれ」
ジョージは改めてこの世界が決して平穏な場所ではないと認識していた
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