オーバー刑務所
ちびまるフォイ
無関心な親子
刑務所官は頭を悩ませていた。
「どこの刑務所もオーバー刑務所だ……」
刑務所の埋まり具合が画面に表示されている。
どこも満席だ。
「刑務所官、新しい犯罪者です」
「もう収容できないよ。まったくなんて治安なんだ」
「最近では犯罪者を刑務所から助けるため、犯罪を犯すので悪循環です」
「私にはよくできたいい娘がいる。
なのに街がこんなに終わってるんじゃ心配だよ」
「それで刑務所官、この犯罪者はどこに収容しますか?」
「うーーん、ちょっと待ってくれ。どこもいっぱいなんだ」
どこの刑務所でも長い刑期を過ごすため、なかなか空きがない。
かといって捕まえた犯罪者をリリースしていいわけもない。
「どうしよう……。そうだ!」
刑務所官はあるアイデアが思いついた。
新たな法律が生まれて、一般家庭も刑務所として使えるようになった。
「民泊ならぬ
一般家庭に余っている物置とかのスペースを
犯罪者の収容に使ってもらえばいい!」
「すばらしい考えです、刑務所官!」
「これで犯罪者がいくら増えても大丈夫だ!」
民間独房こと民独はすぐに広まった。
民独に協力してくれる人には過ごした刑期ぶんの報酬が支払われる。
民独として貸し出す人にもメリットがあるし、
増えすぎた犯罪者の収容に悩んでいた刑務所側にもメリットが有る。
これにて世界はまるく収まった。
かに思えた。
「刑務所官、たいへんです! 民独がもう足りません!」
「うそだ!?」
「最近では優秀な犯罪者が逮捕されて、
そのクローンを控えておくことで犯罪を続ける人もいます。
なので犯罪者は増えるばかりなんですよ」
「なんて悪知恵の働く……。空いてる民独はもう無いのか?」
「見つかりません。もう無人島にでもまとめて島流ししますか?」
「そんな都合いい無人島あるわけないだろ。いや待て、その手があるか!」
「無人島ですか?」
「違う! 無人島じゃないが、そのアイデアは活かせるはずだ!」
ふたたび刑務所官は政治家にかけあった。
まもなく犯罪者専用のシャトル「ノアの方舟」が出来上がった。
「さあ、どんどん犯罪者を詰め込め!」
「刑務所官、このスペースシャトルは?」
「犯罪者だけを宇宙に飛ばすシャトルだ!」
「宇宙で刑務活動でもさせるんです?」
「いいや違う。これが独房なんだよ。
地球上にはもう収容スペースが足りない。
そこで宇宙にシャトルで飛ばすんだ。
刑期を終える頃に地球に戻ってくるだろう」
「なるほど!」
「宇宙には無限のスペースがあるからな!
地球でどんなに犯罪者が増えても、宇宙に飛ばせば問題ない!」
新しい宇宙独房の概念が生まれた。
同じ刑期の犯罪者同士でシャトルにのせられて宇宙に飛ばされた。
必要な刑期年数だけ宇宙を漂流し、刑期が終わる頃に戻って来る。
十分な食料もあるので飢えることもない。
「どんどん打ち上げろ! これで地球から犯罪者は減る!
娘も安心して地球で生活できるはずだ! わっはっは!」
犯罪者だけをのせたシャトルはガンガン打ち上げられた。
ときに爆発したり、地球に帰還できなくなるシャトルもあったが
まあ乗ってるのは犯罪者なので、そうなったとしても問題ない。
しかしそれでもーー。
「刑務所官! 新しい犯罪者です。
多くの詐欺をして女が捕まりました!」
「よく聞く話だ。シャトルにのせて宇宙に飛ばせ」
「ですが刑務所官、犯罪者を納めるスペースが足りません!!」
「ええ!? まだ足りないの!?!」
「実は宇宙用の犯罪者シャトルの準備も時間がかかります。
十分な収容人数が集まらないと発射もできません。
なのに犯罪者は毎日増えているんです」
「うーーんどうしよう……」
すでに「コールドスリープ房」も発明した。
現在の刑務所が空くまで眠らせて、空いたら起こして収容する。
そんな施設も作ったがそれを持ってしても犯罪者のが多い。
すべての独房は埋まっており、未来の独房も予約でびっしり。
「もうどこにも収容できない……。どうすればいいんだ」
悩んだ刑務所官に別の発想が浮かび上がった。
「そもそも収容時間が長すぎるのが問題なんだ。
10年も独房を使い続けるから場所が足りなくなる。
もっと短くすればいいじゃないか」
「刑務所官、それは流石にムリなのでは?
時間は加速させるおつもりですか……?」
「家族刑を取り入れよう。親族で犯罪者が出たならまとめて放り込むんだ。
1人で10年でも、3人家族を同じ独房に入れたら1/3の刑期にしよう。
そうすれば刑務所の回転率があがるぞ!!」
「たしかに! それなら家族ともども反省を促せますし、
収容刑期も短くなるので大助かりですね!」
「さっそく家族刑を導入だ! 犯罪者を連れてこい!」
「はい!!」
部下は詐欺の女を連れてきた。
反省してなさそうなその顔を見て、刑務所官は言葉を失くした。
女は刑務所官の顔を見て驚いた。
「パ……パパ!? ここで働いていたの!?」
家族刑の最初の被験者は、刑務所官とその娘となった。
独房では言い争いが絶えないという。
オーバー刑務所 ちびまるフォイ @firestorage
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