第3話 龍馬

暁斗が驚愕しているのを尻目に、龍星は自らの紋様にトントンと触れる。その瞬間、眩い光とともに龍星の両手に刀とリボルバーが現れる。


「あぁ、俺は坂本龍馬の魂具…"翔龍刀しょうりゅうとう"と"荒馬あれうま"の所有者だ。」


龍星は躊躇いなく暁斗に銃口を向ける。


「さぁ、お前の魂具も出せ。」


「わ、わかったから…!一旦落ち着けって!」


暁斗が手の甲の紋様に触れると、手の中に異様な殺気を放つ大剣が現れた。


「こ、これでいいんだろ!?これで!!」


『はっはっは!戦じゃ戦ぁぁぁあ!!』


「なっ…魂具が喋った…!?」


龍星は目を見開き言葉を失った。


「え?魂具って喋んないの…?」


「当たり前だ!武器が喋ってたまるか!!」


『ん?何だそんなことも知らないのか?』


「お前のせいだろうが!!」


龍星は咳払いをして話し始める。


「ま、まぁいい…お前はとにかくそいつと契約したわけだな?」

「あーうん…い、一応ね?」


───空気が急に重たくなる。


龍星の表情が更に冷たく変わった。


「お前には今2つの選択肢がある。俺に協力するか…ここで死ぬかだ。」


「えっ?」


龍星はゆっくりと引き金に指をかける。


『おい暁斗、殺らなきゃ殺られるぞ?』


「そ、そんなのわかってるよ!よし…場所を変えよう…」


「いいだろう、表へ出ろ。」


2人は無言のまま近所の公園へと向かう。

日は既に沈み、蒸し暑さだけが身体に纏わりついている。

暁斗の額には大粒の汗が浮かんでいた。

暑さのせいなのか、それとも恐怖のせいなのか、自分でもわからない。


「ほ、ほんとにやる気か…?」


「もちろんだ。魂具を構えろ。」


『はっはっは!!わくわくしてきたなぁ!!』


大剣は目に見えるほどの赤黒い殺気を放っていた。空気が軋むような重圧が、公園全体に漂っている。


「…とんでもない殺気だ、やはり昼間感じたオーラはお前だったようだな。」


「おい!お前のせいでとんでもねぇやつ呼び寄せちまってるじゃねぇか!!」


『いいじゃねぇか!!殺し合いなんて生きてるうちにしかできねぇんだ!!』


───パァン!


銃声が響いた。

同時に暁斗の体が勝手に動き、大剣が銃弾を斬り裂いた。


『はっ!そんなちっこい鉛玉ごときで俺に勝てると思うなよ!』


「斬ったのか…?俺が不意打ちで放った銃弾を…?」


「おいお前!勝手に動くなよ危ないだろ!!」


『黙れ!俺が斬らなかったら死んでたぞ!』


暁斗は大剣と口喧嘩を始める中、龍星は構わず再び引き金を引いた。


『おい貴様ぁ!話してる途中だろうがぁ!!』


大剣は自らの意思で動き、飛んでくる銃弾を次々と斬り落としていく。


『はっはっは!そんな鉛玉止まって見えるわぁ

!!おい暁斗!ちゃんと足踏ん張っとけ!』


「ムリムリムリ!そんな激しく動くなって!」


───パァン!


龍星がもう一度発砲してくる。


『ふんっ!また叩き斬ってくれるわぁ!!』


また同じように銃弾を斬ろうとした瞬間───


(なっ…曲がった…!?)


「ぐぁぁあっ…!?」


銃弾は軌道を変え、暁斗の腹部に直撃する。


「お、おい…!何斬るの失敗してんだよ…!!ふざけんなぁっ…!!」


『くそっ…!話は後だ!とにかく突っ込むぞ!!』


「はぁっ!?こちとら怪我してんだぞ!?そんなん無理に決まって───」


言い終わるより早く、暁斗は大剣に引っ張られ龍星の方へ突っ込む。


(は、速い…!避けきれない…!ならば…)

「喰らえっ…"龍巻たつまき"…!!」


龍星が刀を大きく振る。

その一閃とともに巨大な竜巻が発生する。

唸るような風の渦が、暁斗を真正面から飲み込もうとする。


「うわぁぁぁぁああ!!絶対死ぬじゃん!!」


『はっ…おもしれぇじゃねぇか!この俺に斬れねぇもんはねぇ!!』


その瞬間───

竜巻が一直線に裂ける。

渦の中央を真っ二つに断ち切り、その裂け目の中から、大剣を構えた暁斗が突っ込んできた。


『これで終わりだぁぁぁぁああああ!!!』


刃先が龍星の首に迫る───その瞬間。


「ストップ!ストッープ!!お前人の命なんだと思ってんだ!?」


暁斗が力いっぱい大剣を両腕で抑え込む。


『離せ暁斗!!先に喧嘩売ってきたのはこいつの方だ!!』


「そ、そりゃそうだけど…殺すのは違うだろ!もう十分、決着は着いただろ!!」


言い争う2人をの横で龍星はゆっくりと魂具を手放し、両手を上げる。


「参った、お前たちの勝ちだ。喧嘩してないでさっさと殺せ。」


『こいつだってこう言ってるじゃねぇか!!』


「うるさい!とにかく話だけでも聞かせろってば!」


しばらくして───


大剣は不満げに唸りながらも大人しくなる。


「ほら、何か協力してほしいんだろ?聞くだけ聞いてみるよ。」


「そうか…面目ない。」


『あー…面白くねぇ…』


龍星はゆっくりと語り始める。


「"天ヶ瀬あまがせ大和やまと"という名前は知っているな?」


「あぁ…今の総理大臣だろ?それがどうしたんだよ?」


「あいつは…これから、をしようとしている…」


「は…?」


暁斗が息を飲み、龍星は語り続ける。


「あいつは世界中に存在する魂具を集め…"争いのない世界"を作ろうとしている。」


「…えっと、何か問題でもあるのかそれ…?」

『あぁ…そういうことか。』

「お前何か知ってるのか?」


大剣がふわりと浮かび上がり、静かに語り始める。


『お前は魂具の所有権を失った人間はどうなるか知ってるか?』


「いや知らんけど…」


『まぁ端的に言えば…死ぬ。』


「死ぬ!?!?!?」


暁斗は驚きすぎてその場にひっくり返る。


『しかも所有者だけでなく、その血縁者までもが死ぬ。』


「ま、マジで言ってんの…?で、でもそれは大虐殺ってほどでもないんじゃ…?」


『世界中の歴史上の力を持った人物ってのは、ざっと数えて数万人…つまり数万の魂具がこの世には存在してるわけだ。』


暁斗の顔から、一気に血の気が引いた。


『つまりだ───その所有権を片っ端からそいつが奪い取るとなれば、連鎖的に何十・何百万もの人間が死ぬってわけだ。そうだろ、小僧?』


龍星は静かに頷く。


(俺が言いたかった…)


「それを阻止するためにお前の協力が欲しかったんだ。」


「な、なるほど…うーん…」


暁斗はしばらく考え込む。

そして───


「俺なんかで力になれるなら…協力するよ。」


「本当か…!感謝する…!」


2人は力強く、熱い握手を交わした。


『仲良くやってるとこすまねぇが、さっきの戦いでお客さんが来ちまったみてぇだぞ?』

「えっ…?」


男が拍手をしながら1人で歩いてくる。


「よく気づいたね?流石は"武田信玄"と言ったところか?」


『誰だ貴様は?』


影律院えいりついん所属、服部はっとり おぼろだ。その脳裏に刻んでおけ。どうせここで皆殺しだがな。」


シュッ───


空を切る、鋭い音。

その直後、龍星の首元から血が噴き出した。


「り、龍星っ!?何が起こった…!?」


龍星はよろめき、声を絞り出す。


「に、逃げろ…影律院には…関わるな…」


『おい暁斗!攻撃が見えなかった!早く構えろッ!』


慌てて暁斗が大剣を構えようとした、

その瞬間──何かが、彼の手に突き刺さる。


「い、痛ってぇ…!?なんだこれ…!」


傷口からじわじわと、力が抜けていく。


(な、なんだ……?指先に力が入らない…!)


剣を握るどころか、手そのものが自分のものじゃないかのように動かせない。


『暁斗! どうした! 構え──』


「ムリだ……手が……全然動かない……!」


『はぁ!?なんなんだこいつの魂技は!?』


朧は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと前に出る。


「さぁ?理解できますかねぇ?死ぬまでに。」

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