第2話 初陣

男たちが音を立てずゆっくりと近づいてくる。


『暁斗、早く構えろ。』


「だ、だから無理だって!こんな重いの持てるわけ──」


『黙れ!!!死にたくなければ構えろ!!!』


「ひ、ひぃぃ!!こうなりゃヤケクソだぁぁぁ!!」


暁斗は叫びながら大剣を両手で持ち上げようとする。


が──


ピクリとも動かない。


「やっぱダメじゃねぇかよぉぉぉおおお!!」


『気持ちが足らんのだ気持ちがぁぁぁあ!!』


「知るかぁぁあああああああああ!!!!!」


暁斗がやけっぱちで怒鳴り返した瞬間、大剣が突然持ち上がる。


「うぉっ…!?」


ザシュッ───


「ぐぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!??」


暁斗は勢い余って大剣を振り下ろす。

振り下ろした軌道の先、男の1人が文字通り真っ二つに裂けた。

両断された男の体は切断面が光を放つ───

直後に爆ぜるように粉砕され、消えた。


「…は…?」


暁斗は大剣を握りしめたまま呆然と立ち尽くす。


自分が殺した。


そんな実感が背中に重くのしかかる。


「1人やられたか。しかし2人いれば十分だ。」


『来るぞ暁斗っ!!構えろぉっ!!』


「はっ…!」


暁斗はわけも分からずとにかくブンブンと大剣を振り回す。


「うわぁぁぁぁああああああ!!

俺に近寄らないでくれぇぇぇぇえええ!!」


暁斗が正気を取り戻した時──

男たちは1人残らずいなくなっていた。


『よくやった暁斗、初めての戦にしては悪くなかったぞ。』


「へっ…?あ、あの人達は…?」


『ん?奴らはお前が斬り殺したではないか?』

「あっ……」


バタンッ───


殺したという現実がようやく追いついた瞬間。

暁斗はその場に崩れ落ち、気を失った。


数時間後、


「暁斗!暁斗!!あんた庭で何してんの!!」


母親の怒声とビンタで目を覚ます。


「うーん…あ、あれ?でっかい剣は…?」


「何寝ぼけてんのさ!!明日こそはちゃんと片付けしなさいよ!!」


「あ、うん…すんません…」


(夢だったのか…?)


朦朧とする頭を抱えながら自宅へと戻る。


「はぁ…妙に記憶に残る夢だったな…まぁあんなの現実なわけないよな───」


洗面所の鏡を見た瞬間───

手の甲に浮かぶ黒い紋様が目に入る。


「……え?」


紋様を消そうと水と石鹸で擦りながら洗う。

しかしその紋様は全く消える様子がない。


「なんなんだよまじで…!こんなの見られたら誤解される…!」


暁斗は焦りと不安に駆られる。

ふと指でその紋様に触れた瞬間、紋様が白い光とともに輝き始める。


「うわっ!?な、なんだよこれ!?」


慌てて自室へ駆け込み、ドアを閉める。


そのとき───


『暁斗、もう一度紋様に触れろ。』


あの声が頭の奥から響いた。


「ま、またこの声…!まじでなんなんだよ…!」


震える手で再び紋様に触れる。

その瞬間───

閃光のように手元から現れたのは、あの巨大な大剣だった。


「うぉっ…!?重っ……くない?さっきより全然軽い?」


『あぁ、契約が成立したからな。』


「契約…やっぱり夢じゃなかったってことか、てか何の契約!?」


「そうか、そこから話す必要があるな。」


大剣はふわっと宙に浮かび上がり語り始める。


『お前は武田信玄おれの魂、を宿したその大剣───

"猛虎もうこ"の所有者となる契約を交わしたのだ。』


「で、でも…契約なんてした覚え…」


『ん?さっきお前の血を捧げたではないか?』


「は…?」


暁斗はぽかんと口を開ける。


「え…?あれ契約だったの!?そんなの聞かされてないんだけど!?」


『あぁ、言ってないからな。』


「お前マジでクソだなぁ!?」


暁斗は拳を握りしめ、血走った目で大剣を睨みつける。


『はっはっは!!まぁおかげで命は助かったではないか!!』


「まぁそうだけど…いやあれもあんたのせいじゃないか…!?」


『まぁ確かに奴らの狙いは俺の回収だっただろうからな。』


「じゃあ俺関係ねぇじゃん!!」


暁斗は怒りながら全力で大剣を殴る。


ガンッ!


「いってぇ!!無駄に硬ぇんだよクソが!!」


『はっはっは!お前の貧弱な打撃など屁でもないわ!!』


「こいつムカつくなぁ…てか、あんたは結局何者なんだよ?」


暁斗は胡座をかいて座り込む。


『あぁ、俺は"武田信玄おれ"の死後の魂を宿した偉大なる武具…"魂具こんぐ"だ。』


「魂具…?」


『そうだ。この世には、“人間の魂”が具現化することで生まれる魂具という存在がある。

戦国武将、革命家、偉大な将軍──その力は死してなお、武具という形で世界に残っている。』


「じゃあ家康とか信長も魂具として存在してるってこと…?」


『当然。奴らもどこかで眠っているだろうな。今この瞬間も、“継承者”に選ばれるのを待っている。』


「…なんか規模でかすぎてわけわからん……」


暁斗は頭を掻きながら、苦笑する。


『そして魂具にはそれぞれ固有の能力…"魂技こんぎ" が存在する。』


「えーっと…じゃああんたの魂技は何なんだ?」


暁斗は険しい顔をしながら問いかける。


『俺の魂技は"斬爆ざんばく"、つまり斬りつけた対象を内部から爆ぜさせるというものだ。』


「じゃあ、あの人たちが爆発したのは俺のせいじゃないってことか…」


『いや、斬ったのはお前だぞ。』


「うるせぇよ!!!」


『まぁ、言っておくが……今のお前の攻撃では、“魂技の本来の力”は引き出せていない。』


「また俺が貧弱だって言いたいのか?」


『あぁその通りだ。だが、お前自身の力が育てば“斬爆”はもっと強力になる。今のは……せいぜい火薬玉一個分といったところか。』


「毎度毎度、一言余計なんだよ…」


『だが、斬爆を使うと一時的に自我を保てなくなるというデメリットが存在する。

お前が戦っている最中の記憶がほとんどないのは、その影響というわけだ。』


「結構そのデメリットキツくない…?」


『あぁ…だからこそ、ここぞという時に使う必要があるというわけだ。非常に強力な魂技ではあるが、無闇に使うと何が起こるかわからんからな。』


家のチャイムが鳴る。

階段を誰かが登ってくる。


『ん?誰か来たようだ。俺は消えるぞ。』


大剣は一瞬光ったかと思うと消えてしまった。

直後、ドアが開いた。


「暁斗ー、あんたの友達だって言う子が来たから連れてきたわよー」


母親はそう言い残して部屋を出ていく。


「誰だよこんな時に───」


言い終わるより早く、見知らぬ男が部屋に入ってきた。


髪は雪のように白く、表情は冷たい。

かなり端正な顔立ちをしているが、愛想の欠片も感じられない。



「えっと…どちら様ですかね…?」

「あぁ、俺は龍星だ。」


しばらく気まずい沈黙が流れる。


(な、なんだこいつ…)


「えーっと…何の御用で…?」


龍星は質問に答えることなく、暁斗の腕を掴み引き寄せる。


「ちょっ…!?何すんの!?」


「やっぱりか…お前、契約しただろ。」


彼の視線が、暁斗の手の甲に注がれる。


「な、何でその事を…」

「当然だ。俺もお前と同じ魂継士こんけいしだからな。」


そう言って、龍星は自分の手の甲を見せる。

そこにも確かに、紋様が浮かんでいた──

形こそ違うが、明らかに同種のもの。


暁斗の頭に、ざわりとした感覚が走る。


「魂継士……?なにそれ……」


「封魂具と契約し、歴史の力を継ぐ者のことだ。……知らなかったのか?」


「知らねぇよ!なんなんだよ今日の俺の人生!!」


暁斗は頭を抱える。

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