せせらぎ~最愛の声に導かれ癒される記憶の旅~

日和崎よしな

1.せせらぎ

本作は第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテストASMR部門エントリー作品です。

コンテストの性質上、台本形式となっております。

―――――――――――――――――――――――


//SE 穏やかな川のせせらぎ


(霧の向こう側から優しく声を届けるように)

「こんにちは」


「驚いたよね。気がついたら川の中にいて、腰まで浸かっているんだから」


「しかも、深い霧で何も見えないんだものね」


「夢だと思う? ちょっと違うけど、まあ、これも夢みたいなものかな……」


「大丈夫。安心して。わたしが声できみを導くから」


「こっちだよ」


「さあ、歩いて」


「こっちだよ」


//SE 腰まで浸かった川を横切る音(水をかき分ける音)


「そうそう。こっちだよ」


「ねえ、わたしが誰だかわかる?」


//SE 穏やかな川のせせらぎのみ(立ち止まった)


(少し寂しそうに)

「そうだよね。わからないよね。わたしが誰かも、ここがどこかも」


「きみは記憶を失っているんだよ。わたしのことも、自分のことも」


「だから……」


(耳元でささやく)

「わたしが思い出させてあげる」


(霧の向こう側から優しく声を届けるように)

「ちょっと驚かせちゃったかな?」


「でも、これからもっと不思議な体験をすることになるよ」


「わたしが過去を再現した世界を創って、きみは過去の自分に入り込むの」


「きみは過去を追体験するんだよ」


(耳元でささやく)

「それじゃあ、いくよ」


//SE ヒューッと風が吹き抜ける音(世界が切り替わる音)


(耳元でささやく)

「上を見て。桜が綺麗でしょ? ここは高校のグラウンドの端。いまは春。きみが2年生になって間もないころだよ」


(横からオドオドした感じで)

「あ、あの……」


(耳元でささやく)

「そこにいるのが当時のわたし。セーラー服姿のわたし、かわいいでしょ? 肩まで伸ばした黒髪と丸い小顔をいつもほめてくれていたよね。嬉しかったなぁ」


(耳元でささやく)

「でもそれは、もう少し先の話。いまはそうなるための大事な時間だから、過去のわたしに向き合ってあげて」


(向き合ったので正面から、オドオドした感じで)

「お昼休みにこんな所に呼び出してごめんね。どうしても伝えたいことがあって」


(ためらいつつも、勇希をふり絞って)

「あの、わたし……きみのことが、好き……です……」


//SE サァーッと風が吹いて桜の花びらがこすれる音


(主人公のOKを受けて、喜びをかみしめるように)

「ほんと? 嬉しい。ありがとう」


(耳元でささやく)

「どう? 思い出した? せっかくだから当時の記憶を楽しんでね。わたしはしばらく消えているから」


(正面から、照れた調子で)

「お昼ご飯、まだでしょ? 実はきみのぶんもお弁当を作ってきたんだ。一緒に食べてくれる?」


//SE グラウンドの端を歩いていくふたりの足音


//SE ふたりがベンチに腰掛ける音


//SE ランチバッグから弁当箱を取り出す音


//SE 弁当箱のフタを開ける音


「はい、これがきみのぶん」


「あ、待って。わたしが食べさせてあげる。まずは卵焼きだよ。はい、あーん」


「わぁ、嬉しい。夢がひとつ叶っちゃった。わたし、きみとこういうことしたいって、ずーっと思っていたんだ」


(ちょっと不安げに)

「あ、ごめんね。さっき付き合い始めたばかりなのに、距離感、近かったよね……」


(そんなことないと言われて安心する)

「ほんと? よかったぁ」


「え、わたしにも食べさせてくれるの? ありがとう」


「最初はきゅうり? うん、それでいいよ。あーん……」


//SE バリッ、バリッときゅうりを噛む音


「ん……けっこう音がするね。聞かれるの、恥ずかしいよ」


「え、またわたしに? 次はから揚げかぁ。はい、あーん……」


//SE パリパリッというから揚げの衣を噛む音


「うん、おいしい。あ、自画自賛しちゃった。じゃあ次はわたしが……って、もう全部食べちゃったの? 早いよぉ」


「あ、またあーんしてくれるんだ。次はりんご? うん。あーん」


//SE シャキッ、シャキッというりんごを噛む音


「さっきから音がする食べ物ばかりで恥ずかしいよぉ。ひょっとしてきみ、エスっ気があったりする?」


「ごちそうさま。あー、おいしかった。あ、また自画自賛しちゃった」


//SE 弁当箱のフタを閉める音


//SE ランチバッグに弁当箱をしまう音


「昼休み、まだ時間があるね。もう少し話そ?」


(了承されて喜ぶ)

「わーい、やったー」


「え? わたしがきみを好きになった理由?」


(少し気分が沈んだような調子で)

「わたし、昔は地味だったでしょう? 分厚いメガネをしていたし、髪は短くてちょっとボサボサだった。話し方もボソボソとしていて聞き取りづらいって言われてた……」


「あるとき廊下を歩いていると、教室の中からわたしのうわさ話をしているのが聞こえたの。男子の声だった。わたしのことを地味だとか根暗だとか、誰でもいいから付き合いたいけれどわたしだけはないとか……」


(希望の光が差したかのように)

「そんなとき、その男子たちと一緒にいたきみが、『俺はかわいいと思うけどな』ってはっきり言ってくれたのが聞こえたの」


(照れながら)

「あのとき、わたし、すごく嬉しくて……恋に落ちちゃった。それからずっと、きみのこと、意識していたんだよ」


(しみじみとした調子で)

「それからのわたしは、きみのことをずっと見てた。何事にもまっすぐで、真剣で、誰にでも優しくて……。そんなきみのこと、どんどん好きになっていった」


「あるとき、このままじゃ駄目だと思った。それからのわたしはね、化粧を勉強したり、髪を伸ばして手入れもしたり、オシャレを頑張ったんだよ。メガネもコンタクトレンズに変えたんだ」


「それにね、外見だけじゃ駄目だと思って、積極的に人に話しかけるようにしたの。きみに釣り合う女になるために、きみに告白するために、わたし、頑張ったんだから」


(照れながら)

「え、わたしのことを尊敬するって? そんな、大げさだよぉ。でも、努力を認めてもらえて嬉しい。ありがとう」


//SE ヒューッと風が吹き抜ける音(世界が切り替わる音)


//SE 穏やかな川のせせらぎ


(霧の向こう側から優しく声を届けるように)

「おかえりなさい。思い出せた?」


「そう。わたしはきみの彼女だった」


「いまのできみは、わたしのことと自分自身のことを思い出せたよね」


「でも、なんできみがここにいるのか、そもそもここがどこなのか、わからないよね」


「それは、きみがすべてを思い出してはいないから」


「大丈夫。きみはすべて思い出せるよ。だから……」


「こっちに来て」


//SE 腰まで浸かった川を横切る音(水をかき分ける音)


「そうそう。こっちだよ」

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