隣国の使者

 アリスのが育った国・ヴィリス帝国は、皇帝を頂きとし貴族階級が領地を治める国家である。

 国土は広大で、周辺国随一の大国である。国としての歴史は古く、代々の皇帝は国土を広げることは多少あれど、周辺国とも良好な関係を築きつつ、国を維持してきた。

 建国当初より実力主義であり、血は大切にしつつも、何より資質を重要視してきた。皇帝然りだが、国の要職に就く貴族に対しても、世襲制ではなく、登用を主にしてきた。資質がなければ、親が大臣職についていたとて、子が成れるというわけではない。

 広大な敷地を治めるには、それは複雑な組織が必要で、当然その維持にはかなりの労力を割く。

 故に、帝国では貴族の入れ替わりは他国に比べて激しいと言える。例え古くからの名家であったとしても、主として相応しくないものが当主となった際、場合によっては取り潰されることもある。変わって、優秀なものが家を興し、貴族性を名乗る。

 家は、長く続けば、時に不出来な者が現れる。それは教育如何で変わらない者もいる。


 そういう意味では、アリスの本当の父である皇太子は、皇家としては失敗作と言える。ただ、勤勉で民を大切にする姿勢や、皇太子として為した功績は多くの国民に広く知られていて人気も高かったことから、16歳という若い頃に犯した失態は一旦保留とされた。

 皇家とは言え、ずっと同じ血筋で繋いできたわけではない。事実として、アリスの義父であるクラヴェル公爵を始め、他の公爵家においても【皇位継承権】を有する者が数人いる。

 いつでも皇家は挿げ替えられる。そうして帝国は自浄しながら長く存続してきたのだ。

 その自浄作用は、貴族と市民の代表から成る【評議会】で議論され、決められたことを優先することで維持してきた。例え皇家が命令という形で荒唐無稽なことを言い出したとしても、決してそれがまかり通ったりはしないようになっている。

 皇家とは、国を治める長ではあるが、民意を汲み取る評議会の長であるだけで、形として封建的に見える国の姿はその実議会中心の国家である。

 

 ヴィリス帝国は、その大きさから周辺国とは力の差があった。ただ戦闘を好む国家ではなかった故、周りの国とは交易や姻戚という形で繋がりを持ち、互いを尊重しつつ均衡を保つ形で現状を維持している。

 アリスの実の母は、ヴィリス帝国の北に位置するイスブルグ王国の公爵令嬢だった。

 イスブルグ王国は雪深い国である。年の三分の一は雪に閉ざされる。そのため農資源に乏しく輸入に頼る。しかし、国を維持出来ているのはその国の卓越した技術力にある。国土はさほど広くないが、イスブルグで作られる機械製品は精密で耐久性の高い実用向きの者が優秀なのである。

 ヴィリス帝国に技術を提供することで農資源を輸入し、国民を養っている。技術面で繋がってはいても、長らく姻戚関係を結んでいなかった。

 ヴィリス帝国の皇太子とイスブルグの公爵令嬢との縁談が持ち上がったのは、姻戚関係となることでより硬い国同士の繋がりを作る目的があった。

 ヴィリス帝国の北の辺境伯家には、距離が近いこともあって、イスブルグ王国との縁があった。アリス出産時に、公爵令嬢が辺境伯に預けられたのは、そういう理由があった。

 皇太子と公爵令嬢の一件があってから、イスブルグ王国との関係には若干不穏な空気が流れた。が、ヴィリス帝国のほうが力関係としては強いこともあって、イスブルグ王国からの関係断絶の動きは起きなかった。

 アリスが生まれた後の両国の話し合いで、イスブルグは皇太子の血を持つ赤子の嫁ぎ先としての権利を求めた。ある意味人質である。

 帝国は、皇太子の落胤であるアリスの存在を自国に留め置けないリスクは承知しつつも、イスブルグ王国に権利を渡すことで、今後の国同士の繋がりを維持することとした。


 アリスが8歳となり、公爵家からアリスに事実を伝えたことが皇家に報告された。

 この年、イスブルグ王国からの使節団が、帝国に逗留することが決まっていた。アリスに接触を求める可能性もあったため、アリスには自身の生まれについて知らせておく必要があったし、のちに彼女は終の棲家としてその国へ行くことが決められていたから、その心構えを育てるための最初の一歩でもあった。


 王国からの使節団は、公爵家当主を団長とする一団であった。

 さほど大きくない国から公爵家の当主が出てくることが、すでにこの訪問が重要視されていると分かることだったが、使節団に王族が含まれていたことは殊更異例であった。

 

 雪解けを待って国境を越えた一団は、夏の足音が聞こえる頃、ヴィリス帝国の帝都に到着した。


 使節団は、国交に関する交渉をする部門は中央機関が集中する皇城に逗留し、視察を目的とした部門はいくつかに分かれてそれぞれの地域を統括する貴族家に逗留することとなっていた。


 クラヴェル公爵家にも、視察の名目で団長である公爵と今回異例の参加となった第3王子が逗留することとなった。

 

 


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すみません、会話が一つもない( ;∀;)



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