第4話 松崎しげるになりたかった大根
薄れゆく意識の中で途切れ途切れに浮かんでは消える思い出。
次に気が付いた時は、何もない真っ白な空間で。
眩しさに一瞬目を閉じて、次に目を開けたら布団の中だった。
どうしてまたここに戻ってきてしまったのだろう。
夢だったらよかったのに。
悲しみも苦しみも痛みも夢だったらいいのに。
記憶で一番最初に消えるのは声
嘘だと思ってたけど、ほんとだね
あんなに話していたのに
あなたの声が思い出せない
話した内容は覚えているのに
記憶から消えた、あなたの声
もう思い出すことすら難しくて
声が聞きたくて
だけど、あなたはこの世界にはいなくて
記憶の中の声を探す
静まり返った部屋で一人物思いに耽る。
夜空に瞬く星を取ろうとした幼い頃。
いつかあの夜空に手が届くと信じていた。
何にも怖いものなんてないし、なんにでもなれると思っていた。
現実はいつだって無常で、無慈悲で。
砂のようにさらさらと手から零れ落ちてしまう。
そして寂しさだけが残った。
貴方には健やかで清廉潔白でいて欲しいと願った。
いつの日か、素敵な誰かと人生を共に歩む日が来るだろう。
誰よりも喜び祝福するだろう。
だけど心の奥底で寂しさと哀しみを抱くことに貴方はどうか気づかないで欲しい。
人知れず貴方を想い続けている、この心にどうか気づかないで欲しい。
コツコツ、自分の速度に合わせるように迫ってくる足音に恐怖を感じて小走りになる。
気が付けば人通りの少ない路地に迷い込んでしまった。
どんどん迫ってくる足音、もう逃げられないそう覚悟決めたとき。
「あの、これ落としましたよ」
背後から声をかけられ、差し出されたのは私の定期券だった。
僕は君に嘘をつく。
君はそれに気づかないフリをする。
それに甘えて、傷ついているのを見ないフリをして小さな嘘を重ねる僕は弱虫で卑怯者だ。
僕はどれだけの嘘をこれから君につくのだろう、君はどれだけ人知れず傷つくのだろう。
君が微笑むたびに僕の心に影が差す。
光が影を作るように…。
君が頑張ろうとする姿が、どこか無理をしているように見えて咄嗟に僕は嘘をつく。
「なんでもないんだ、ちょっと言ってみただけ」
何事もなかったかのように続いていく会話にぼくは安堵を覚えた。
これでいい、君は何も気づかなくていい。
君はどこまでも自由に羽ばたいていて、僕が飛べなかった空を。
誰かを思い出すときは空を見上げる
声が聞こえるわけではない
姿が見えるわけでもない
だけどこの声が確かに届くような気がするから
会いたいのに会えなくて悲しくなる時もある
寂しくてあなたのことを思い出すときもある
そんな時に空を見上げて話しかける
「元気ですか?」
「焦げ味になった大根」
美味しそうな焼目になるはずだった。そう、私は選ばれし大根!!
「松崎しげるになりたかった大根?お姉ちゃんサイコー」
私を作った人間が笑っていますけど、私は美しい焼き色が良かったですわ!名付けた方の気もしれません。ああ、私はなんて悲劇的な大根なのでしょうか。
「あ、焦げの味する」
「松崎しげるになりたかった大根」
大根ステーキになるはずだったものを見て大きなため息をつく。真っ黒焦げにしちゃった。
写真を撮ってお姉ちゃんに見せたら爆笑しながら「この大根、松崎しげるになりたかったの?」って言うから笑っちゃった。
確かにこの黒さ、松崎しげるっぽい。
そう思うと少し食べにくいけど、いただきまーす!
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