第3話 タイトルのないお話(3)
お願いだから気づかないで。僕の強がりに、僕の本音に。
弱いところは見せたくないんだ、君に嫌われるのが怖いんだ。
だから僕は遠くから君を見守ってるから、君は僕を忘れないで。
夜空を見るたび、星を見るたび僕を思い出して。
君は最高の友達、永遠に。
僕は大丈夫、ずっと笑ってるから。
嘘を付くのが苦手だけど、隠しごとをするのはだんだん上手くなる。
本当は素直でいたいのに、自分の気持ちを隠す事で円満な人間関係が築けるのならなんたって飲み込む。
仕事だろうがプライベートだろうが。
ふんわり微笑んで「大丈夫です」って言って言えばいい。
私の本音は何処に行くんだろう?
口を滑らせて君に気持ちがバレてしまった。
「冗談だよ」って笑って誤魔化せば良かったけど、冗談にしたくなかった。
結果的に君を困らせてしまったね。
今まで通りに声をかけれなくなったのは僕の方だ。
今まで通り友達でいられるけど、僕は君に気持ちがバレてしまったから逃走しよう。
月明かりが静かに辺りを照らす。
足音を立てないように息を殺して背後に近づいていく。
鞄から刃物を取り出す。
月明かりで氷柱のように美しく輝く刃物で躊躇わず心臓を突き刺す。
あたしは人魚姫じゃないから、振り向いてくれない王子さまに用はないの。
「さようなら、あたしの王子様。またね」
一方通行のメッセージ。
忙しい人だからで全て飲み込んだ。
話したい事ばかり増えていくのに、あなたに届かない言葉ばかり増えていく。
祈るように送るメッセージ、まるで壁に向かって話しかけてるみたいで空しくなる。
ああ、そうかずっと星を掴もうとしていたんだ。
そりゃと届かないわ…。
夜、通話したいってわがままにいつものように君が応えてくれる。
疲れてるのかすでに眠そうな声。
「今度のデートいつにする?」「昆布のだし汁…」
聞き返そうとしたけど、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
それにしても昆布のだし汁って、君もしかしてお腹空いてた?
笑いを嚙み殺した。
遠くから眺めてるだけで幸せだった。
君が幸せそうにしている姿を見てるだけで満足だった。
気が付いたらそれだけで満足できなくなって、どうしたら僕だけを見てもらえるのかどうしたら僕だけの君にできるのか考えるようになった。
僕のモノにならない君なんていらない。
そうだ、君を…。
どんよりとした灰色の雲と暗い海の色が混ざってぼやけた地平線に向かって駆け出す。
「これもアオハルだー」
そんな僕をきょとんとした顔で君が見つめている。
規則正しく寄せては返す波。
冷たい風が高揚した僕の頬を優しくなでる。
なにかを振り切ったように君も駆け出す。
貴女が見知らぬ誰かと遠ざかる夢を見た。
それがとても悲しかった。
叶わない想いだとわかってる、だけど貴女が好きな気持ちを胸に秘めている。
もし、別世界線だったならこの想いは届いたのかな?
答えはわからない。
貴女は大切な人、だからただ貴女の幸せを祈るだけ。
そっと好きでいるだけ。
窓の外はどんよりと重い雲が広がっている。
きっともうすぐ雨が降るだろう。
すべてを雨は消してくれる、だから雨を待っている。
さようなら、あなた。
うっすらと微笑みを浮かべる。
もうすぐこの場所にあなたが来る。
雨がぽつぽつ降りだした。
きっとこの雨がすべての痕跡を消してくれる。
あなたが朝日のように行き先を照らしてくれる。
いろんなものを浄化してくれるような、そんな朝の柔らかなあたたかな光。
長かった僕の中の夜がようやく終わる気がした。
ここからは一人でも大丈夫。
あなたがそこにいてくれるから、一人じゃないってわかったから。
僕は行く、いつか辿り着く場所へ。
真夜中に外に飛び出した。
静まり返った街の中を、息を殺して駆け出す。
我が物顔で居座る闇の中すべてを眠りに包む夜の中。
無我夢中で走り出す。
すべてに反旗を翻したくなって、僕は夜に駆ける。
誰も傷つけないように、誰も傷つかないように。
僕の静かな反抗。
朝日が出たら何食わぬ顔で。
静かな夜に、温かい飲み物をもって忍び足で外に出る。
真っ白な息と湯気が暗闇に溶けて消えていく。
眠れない世界に僕だけ取り残されたような、動き出す朝に背を向けたようなこの時間が好きだ。
暗闇の中に僕だけがいる。
雲の上では星がきっと輝いているんだろう。
少しだけ、泣いてもいいよね?
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