第3話 三人での勉強会

文化祭が終わると中間テストだ。

正直に言おう。

僕は勉強が得意ではない。

綾部の校風で選んだのも事実だけれど、偏差値で選んだのも事実だ。

その中の中間よりちょっと上。

そこが僕の平均値。

両親にはお化粧なんてしてるからって言われるけれど、綾部は偏差値を抜きにしてもいい学校だと思うんだよな。

「村崎さんは勉強とか出来そう」

ぽつりと呟いた言葉はいつの間にか本人に聞こえていたらしい。

「そんなことないよ」

「そんなことあるよ〜!なんか、出来るオーラが出ているもん!」

なんて僕が軽口を叩くと、近くにいた男子が寄ってきた。

「青江、知らねぇの?村崎さん学年トップだぜ」

「えっ!?」

「そんな大したことじゃないでしょ」

「たいしたことあるよ!」

僕は驚きのまま大きな声で叫んでしまった。

その声に反応してクラス中の視線が僕達に集まった。

「馬鹿、青江。声がでかい」

「ご、ごめん…」

僕が謝ると嵐がやってきた。

「青江先輩!勉強教えてください!」

赤井さんだ。

「赤井さん。残念ながら僕に一年の頃の勉強の記憶はないよ」

「うわぁん!」

赤井さんが泣いた。

「でもほら!赤井ちゃん!うちには学年トップの村崎さんがいるから!」

男子生徒がフォローするが、突然名前を出されて村崎さんが抗議した。

「ちょっと!」

「村崎先輩〜!お願いします!」

「僕も勉強を教えて欲しいな、村崎さん」

村崎さんは溜息を吐いた。

「青江くんはともかく、あなた初対面でしょ。誰?」

赤井さんに尋ねると、赤井さんはピシリとポーズを決めて挨拶した。

「一年の赤井です!青江先輩とは中学からの先輩後輩の仲です!よろしくお願いします!」

そのままお辞儀をする。

「悪い子じゃないんだよ。僕の勉強と一緒に見てあげてくれないかなぁ」

村崎さんはまた溜息を吐いた。

「コーヒー何杯奢らせようか」

「……二人でなら払えるよね?」

僕が赤井さんに尋ねると、赤井さんは頷いた。

「任せてください!今月は割ったお皿の数も少なくて弁償額が少ないので!」

…任せていいのかなぁ。

僕がそんな気持ちでいると、予鈴が鳴った。

「それじゃあ青江先輩、村崎先輩!今日の放課後からお願いしますー!」

そう叫びながら嵐は去っていった。

僕の平穏も去っていくらしい。


「お待たせしました!」

嵐、もとい赤井さんが教室にやってきた。

僕はもう教わっている最中だ。

「一年の範囲ってどこからどこまで?」

「えっと、数学がここからここまでで、国語が…」

赤井さんが付箋が付いたページを開きながら村崎さんに説明している。

僕は予想された出題範囲を重点的にこなしている。

「…て、なるわけ」

「なるほど…!!」

村崎さんの赤井さんへの教え方も順調なようだ。

「あなたもメイクしているんだ」

村崎さんが何気なく言った。

「はい!青江先輩みたいになりたいんです!」

「ふぅん。それって可愛くなりたいってこと?」

赤井さんは少し考えた。

「それもありますけど、これ、ご本人の前で言っていいのかな…」

赤井さんにちらりと見られて大丈夫の意味を込めて頷いた。

「青江先輩、中学の時は少し浮いていたんですよね。綾部はそんなことないんですけど、普通の中学だし普通の人しか居なかったから、男の子で可愛いが好きってすごく浮いていたんです。でも青江先輩はそれを貫いた。すごく格好いいなって思ったんです」

「そんなことないよ。好きなものを好きって言っただけだよ」

赤井さんは慌てた。

「それがすごいんです!今は多様性とか色々認められているけど、まだ少数派じゃないですか!それでも貫いた。青江先輩は可愛くて格好いいです!」

一生懸命伝えてくれる赤井さんに、あの懐き方にはそんな裏があったのかと思うと恥ずかしくて嬉しくて顔が赤くなる。

「ふぅん。青江くん、すごいじゃん」

村崎さんを見ると、どこか得意気だ。

「なんで、村崎さんが得意気になるのさ」

「さぁね」

そう言いながら僕の答えのミスを指摘してくる。

この二人に挟まれて、勉強会は無事に終わるんだろうか。

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