『ジオ・フロンティア』〜亡き祖父の遺産〜
祖父が遺したものは、埃っぽい書斎と、1冊の古びたフィールドノートだけだった。歴史と地理だけが取り柄の僕にとって、それは唯一無二の宝物になった。
革張りの表紙を開くと、インクが
『明日、8月23日。神社の裏手にある大楠の根元で、最初の標を見つける』
未来の日付。――馬鹿げている、と自嘲が漏れた。祖父は変わり者だったが、預言者だったなんて話は聞いていない。
だが翌日、僕はまるで何かに導かれるように神社の裏手にいた。半信半疑で大楠の根元を掘り返すと、硬い感触が。苔むした石の下から、奇妙な文様の入った石版が現れた。ノートの記述は、現実になった。
それから僕と仲間たち――『ジオ・フロンティア』のメンバーたちによる、夏の大冒険が始まった。
ノートの記述は次々と現実になっていく。
『豪雨で増水した川の、三番目の橋桁の下』
『廃線のトンネル、入り口から百歩目の枕木』
まるで予言書のように僕たちの行動を先読みし、日本各地に眠るオーパーツ――場違いな工芸品――の在り処へと導いていく。僕は、祖父が時空を超える方法を見つけていたのではないかと、本気で信じ始めていた。
旅の途中、仲間の1人、翔太が崖で足を滑らせ捻挫してしまった。ノートに書かれた次の探索地へ、時間通りに行けなくなってしまう。
「予言が……外れる」
僕の呟きに、翔太が済まなそうに顔を歪めた。
僕たちは翔太の介抱を優先し、1日遅れで目的地である岬の洞窟にたどり着いた。
……もう、手掛かりは消えているかもしれない。
だが、洞窟の奥には、次のオーパーツである歯車が、まるで僕たちを待っていたかのように鎮座していた。
そして、その傍らには1枚のメモが。
『友を思う君の優しさも、計算通りだ』
最後のオーパーツは、祖父の書斎にあった。
ノートが示したのは、僕が最初に開いた本棚の、1冊の古い地質学の本。そのページをめくると、羊皮紙に包まれた最後の手紙が挟まっていた。
『驚いたか? これは未来日記じゃない。お前がここに来るまでの全てを予測して、このワシが仕掛けた、壮大な宝探しゲームだ』
オーパーツは全て、祖父が趣味の工芸で作ったものだった。
未来を予知したのではない。孫の性格と、友人との絆を完璧に予測しきった、祖父からの最期の贈り物。
僕の手の中で、手作りのオーパーツが、夏の太陽よりずっと温かく輝いていた。
(了)
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