第2話 1年生春〜秋
時は中学1年生。
私は女子バスケットボール部。訳して女バスに入った。
理由は、近所に住む仲良しの一個上の先輩が入っていてとても雰囲気が良さそうだったから。
もう一つは、昔から運動が好きでとにかく運動部が良かった。山皿中は生徒数が少ないこともあり、女子が入れる運動部は片手で数えるほどしかなかった。その中で1番自分の雰囲気に合いそうな女バスを選んだ。
同じように部活に入った仲間は、私含めて12名。女バスの中では歴代で1番多い人数だという。メンバーは性格の種類が12通りあった。
元気なもの、物静かなもの、サボりがちなもの。グループ的に言えば大体この3通りに分かれていた。いや、分けられていないかもしれない。本当に個性豊かなメンバーだ。
この12人のメンバーは全員初心者で、なかなかゲームの練習をさせてもらえなかった。基礎のハンドリング、ドリブル、レイアップ、ゴール下。永遠に基礎だった。先輩がゲームの練習をしていてどれほど羨ましく思ったか。
そう思っているとあっという間に3年生の引退になってしまった。というのも、その時はコロナ禍で、最低限のメンバーしか来てはいけないという人数制限があった。だからどのような戦いが繰り広げられたのかは知らない。が、先輩たちはとてもすごかった。かっこよかった。強かった。先輩の練習試合を2回ほどしか見れていないが、絶対に通るパス。正確なシュート。感情むき出しで奪い合うリバウンド。全てが未知の世界だった。この世界は輝いている。そう思えた。
6月学総前。
1年生の仲間1人が言った。
「私たちも先輩に何かできることしようよ!」
「例えば?」
「うーん。あ、そうだ!おもちゃのバスケットボールに寄せ書きして渡すのはどう?」
「めっちゃいいじゃん!」
積極的な仲間のおかげで、先輩に頑張ってほしい気持ちも表すことができた。
先輩たちはとても喜んでくれて、救急セットのバッグの中に大切にしまってくれた。
1年全員-「頑張ってきてください!」
私たちはコロナで大会に行けない代わりに、学校に出席しなければならないので2日間学校で自習をしに行った。しかし、先輩たちの試合が気になって自習に集中できない。
-今どうなってるんだろ?-
心がうずうずしていた。
-先輩の試合の知らせは大会の3日後、監督の口から直接伝えられた。結果は2回戦敗退。惜しくも負けてしまったそうだ-
「先輩たちが負けた。」
今までにない悔しさが出てきた。こんなに身近に存在していた人たちがもう引退してしまっただなんて。
というのもその時期はコロナ禍で必要最低限のメンバーでしか、会場に行くことができなかった。1年生は連れていってもらえない。先輩の勇姿を見ることができない。これほど辛いものはなかった。
お疲れ様でした。の一言も言えず先輩は引退した。なぜこんなに、コロナは私たちを苦しめるのか。見えないウイルスでさえ、感情をぶつけたくなった。
だが、いつまでも先輩に縋っているわけにはいかない。2年生の先輩についていき、ときには支えて頑張ろう。
ここから奈々の成長物語が始まる。
奈々は少しずつ力をつけていった。ハンドリングを真面目にやり、ドリブルも少しずつ上手くなって、レイアップのコツも掴めてきた。
やがて、先輩の試合にも少しずつ出させてもらえるようになった。とても楽しかった。何より部長がうますぎる。どうやらクラブチームに所属していたらしく、皿中の中ではピカイチだった。ほしいところにパスを出してくれて、シュートを外しても絶対リバウンドを取ってくれる。安心感が半端ない。
「部長はすごい。いつか自分もこうなりたい」
楽しい。素直にバスケを楽しめていた。
しかしコロナ禍の勢いは止まらない。感染が広がり、夏休みあと半分というところで部活をすることが中止になってしまった。勢いに乗っていた奈々は気持ちがダウンした。なんせこの時の世界は、いつコロナが落ち着くかわからなく最悪、ずっと部活ができない可能性だって無くはない。そう感じていた。
しかしコロナ禍も波があり、一旦落ち着いたので練習が再開した。部活が休みの期間、宿題、勉強もしつつ、体幹トレーニングを頑張ってみた。そこである程度の体幹は整った気がする。
コロナが落ち着き二学期が始まった。段々と涼しくなっているが、冷房のない体育館でやるバスケはいつでも暑い。
時は巡り11月。秋。ある日、近所ではどの部活も強いと有名の中学、福只中学と練習試合をすることになった。
ビー。
試合始まりの合図のタイマーの音が鳴った。ジャンプボールで勝ち取ったのは山皿中。チームのリバウンド上手な先輩が手でボールを叩き部長の方向へ。
部長が受け取りそのままパスして、先にゴールに走っていた足が速い副部長へ。
ポスッ。
「!?」
パスカットされた。行動を読まれていたのだ。
バスケは5人制。1人がジャンプボールをすれば、すぐにボールに対応できるのは残り4人。しかしボールは自分に来るのか、味方に来るのか、相手に来るのか読めない。しかし副部長は徹底的にマークされていた。副部長が走り出した瞬間、相手のディフェンスはボールを取ることを諦め万が一パスが通ったときのためにパスカットを優先した。これが強豪の信念なのだろう。
-先制点は自分達が絶対決める-
それから圧倒されて、一方的に点を入れられ、パスをしてもパスカットされなかなか点が入らなかった。結果は56対24。部長の奮起でほとんど1人で決めていたがどれもゴール下で、アウトサイドシュートが得意なガードの先輩や、足が速くてドリブルがうまい副部長は一点も入れさせてもらえなかった。
もちろん私は試合に出ていない。出れるまでもない。
「悔しい」
強いと思っていた先輩が一方的にやられているのに、自分は何もできないことが。この日もっと自分は強くならなければと感じた日だった。
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