第6話 <現代編:再会前夜>葉書がつれてきた記憶
京都
2024年1月25日
6時50分
「やっばい、遅れる!」
廊下にいつもの足音が、グラウンドを駆け回っているよう。
「行ってきま~す」
「ねえ、悠登。水筒は持った?ユニフォームは?」
「持ったよ~」
「鍵は?」
「大丈夫~」
「気をつけてね」
「は~い。行ってきま~す」
ガチャンとドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。
朝の静けさが、部屋に戻ってきた。
玄関先の郵便受。
右に7……左に3……
カチャッという音とともに、扉が開く。
新聞と、塾の講習案内。
あと、自治会からのチラシ……。
視線が一瞬止まる。
あ、葉書も。
私あて……?
葉書の紙面は少し湿っていて、誰かの手を渡ってきた痕のように、わずかに角が丸まっていた。
部屋の中に戻ると、朝の光がカーテン越しにやわらかく差し込んでいた。
『玲子ちゃん。ご無沙汰しています。お元気でしょうか……』
誰から……先生?松山先生だ。
うわあ、なっつかしい。
先生、大阪に帰ってくるんだ。
……えっ?
文字を追う視線が、自然とゆっくりになる。
この“中村君”って、直ちゃんのこと?
名前を見なければ――
思い出すことは、なかったはずだった。
葉書を持つ手が微かに震える。
あの日の、北の大地。
一瞬だけ――たしかに、あの夏の匂いがした。
風鈴の音と、遠くの蝉の声が、胸を撫でた気がした。
あれは、卒業した次の年。
私たちは、あの言葉が最後……。
『まだ、気持ちが残ってるから、自分勝手でごめんなさい。
もう少しだけ、好きでいさせてね』
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