第16話 作戦決行 中編 side:鈴木朔太郎
「それじゃ、トランシーバーのテストをしましょう。確か『こちら〇〇』で始めて『オーバー』で終わるというルールだったわね」
七瀬先生は僕らに確認する。
「そうです。それで応答なく、十秒経った場合は突入しますのでお願いします」
僕はそう答える。
佐藤さんの方をふと見ると顔が強張っている。いつもよりも余裕がないようだ。
僕は佐藤さんからトランシーバーを受け取り、二つのトランシーバーの波長を合わせた。
七瀬先生が少し離れてトランシーバーで通話する。
「こちら七瀬。鈴木君聞こえますか。オーバー」
「こちら鈴木。七瀬先生聞こえます。オーバー」
音に雑音は無く通信はクリアだ。
七瀬先生は僕らを昇降口に残して奥に進む。
「こちら七瀬。今踊り場と昇降口の真ん中くらいよ。鈴木君応答願います。オーバー」
「こちら鈴木。七瀬先生了解しました。オーバー」
今のところこちらも異常はない。
佐藤さんは通信の状況を、固唾をのんで見守っている。
七瀬先生の姿が遠くなる。
「こちら七瀬。今踊り場の前で特に異常なし。鈴木君応答願います。オーバー」
「こちら鈴木。聞こえます。オーバー」
踊り場の前まで来たようだ。いよいよか。
トランシーバーを持つ手に力がこもる。
懐中電灯の光が廊下から消える。階段を昇っているのだろう。
「こちら七瀬。今踊り場に着きました。これから準備に取りかかります。オーバー」
「こちら鈴木。七瀬先生了解しました。オーバー」
ひとまず先生が踊り場に着いたことに安堵する。
しばらくして階段の下が明るくなる。
ランタンが点灯したようだ。佐藤さんの表情は変わらず固い。しばらく沈黙が続いていたので佐藤さんが口を開く。
「ねぇ鈴木君。七瀬先生大丈夫かな。そろそろ」
大きな瞳が少し潤んでいるようだった。
ザザッと音がしたので、僕は佐藤さんにシッと、沈黙を促し、トランシーバーの音量を上げる。
佐藤さんにも聞こえるように、トランシーバーを耳元から離した。
「こちら七瀬。準備完了。現時点で異常なし。十段階目で観察中。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。異常なし。オーバー」
「こちら鈴木。了解しました。こちらも異常なしです。オーバー」
佐藤さんはホッと胸をなで下ろした。
しばらくして第二報が届く。
「こちら七瀬。九段階目で観察中。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。異常なし。オーバー」
「こちら鈴木。了解です。こちらも変わらず異常なし。オーバー」
同じようなやり取りが三回くらい続き、次は五段階目だ。階段の下の光は随分暗くなった。
佐藤さんは緊張した面持ちだ。
「こちら七瀬。五段階。ザザッ、ザザザ、ザザッ」
急にノイズが走る。階段の下はあまり変化が無いように見える。
これは。
僕は心の中でテンカウントを始める。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。
佐藤さんと目が合うと
「佐藤さんは守衛室に行って」
僕はそう言って踊り場に向かって走った。
「七瀬先生」
僕は叫んだ。
踊り場には七瀬先生の姿は見えず、大きな黒煙があった。
間に合わなかったか。そう思った瞬間、黒煙を切り裂くように捕虫網が舞い、黒煙は消えた。
黒煙の立ち込めていた場所には、しゃがんだ七瀬先生がおり、その足元にはトランシーバーが転がっている。
「やったよ。鈴木君。捕まえたよ」
七瀬先生は、満面の笑みを浮かべて、服の袖や裾を払いながら立ち上がる。
しばらくして、ドタバタという足音がして、佐藤さんと佐々木さんがやってきた。
佐々木さんは、何故かさすまたを持っていた。
「七瀬先生。大丈夫ですか」
佐藤さんが叫ぶ。
七瀬先生は満面の笑みでグーサインを出した。
佐藤さんは感極まったのか、涙で濡れた顔を拭いながら笑顔になった。
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