第2話「洗濯無双の村デビュー!? 異世界ママ、初仕事です!」

「ハルさん! うちのじいちゃんの服、なんとかなりますかねえ!?」


 


「ハルさん! この子のよだれかけが……! あ、もう治ってる!?」


 


「ハルさん……この鍋、洗っても取れない汚れが……」


 


「まかせてください!」


 


ええ、そう。私は今――


村の洗濯担当になってます!


 


目覚めてから数日。


ティアちゃんの紹介で村の人たちにあいさつ回りをしてたら、「あら~綺麗な方!」「えっ主婦? うちも娘がね~」と、みんなめちゃくちゃフレンドリー。まさかの田舎の“ご近所トーク力”が異世界でも通用するなんて思わなかった。


 


で、軽い気持ちで「洗濯くらいなら得意ですよ~」って言ったら、気づけば村人全員が洗濯物を持って集まってくる事態に。


でも……やってみたら、案外楽しかった。


 


「洗濯魔法~、いっけーい!」


 


私が手を広げると、ぽわんと淡い光が広がる。その中に入った洗濯物は――


あら不思議。汚れがすべて消え、しみ抜きまでバッチリ、ふわふわでほのかにラベンダーの香りつき。どんなに汚れていても関係なし。伝説の柔軟剤かってレベル!


 


「うちの爺さん、魔獣と戦った血まみれの服だったのに……新品みたいだ!」


「子どものミルク臭さが……取れてる……!」


「え、これ“神”じゃない……?」


 


いやいや、そんなに持ち上げられると困っちゃうんだけど……!


でも正直、主婦歴20年の私からしたら、ボタン一つで全部きれいになるなんて、神より神ですこの魔法。


 


ティアちゃんが言うには、この“洗濯魔法”は本来“生活魔法”というジャンルで、魔法使いの試験にも出ないほど地味な魔法らしい。でも私は思う。


地味な魔法? 家事なめんな。


 


◇ ◇ ◇


 


そんなある日。


「ハルさん、よかったら今日の集会で晩ご飯、作ってもらえませんか?」


 


村の女性に声をかけられた私は、二つ返事で引き受けた。


え? 料理? もちろん得意です!


五人の子どもを育ててきたんだよ!?

予算500円で5人を満足させるレジェンド主婦だよ!?


 


「よーし、今日は異世界風肉じゃがだー!」


 


レシピはない。でも鍋がある。野菜と肉っぽい素材もある。よし、いける。


で、仕込み中に気づいたんだけど――


包丁が、ない。


 


「……まさか、全部手でちぎれっていうのか……?」


 


うーんと悩んでいたら、ティアちゃんが申し訳なさそうに差し出してくれたのが、「木製の刃物」。……ナイフですらない!?


 


「いやもう、スキルでどうにかしよ……」


 


 \料理強化・発動/


 


不思議な光が私の手に宿る。……よし!

これで切れる! 切れるどころか、スパッとプロの手さばき!


どこからともなく包丁の音が聞こえた気さえする!


 


そして炊き上がった異世界肉じゃが(風)。


芋(ぽいもの)ホクホク。肉(獣肉)は柔らかジューシー。


何より、料理強化スキルのせいで、食べた人たちに謎の効果が――


 


「なんか……身体が軽い!」

「視力上がった!?」

「胃腸が整った気がする!」


 


……すごい。


うちの子どもたちにもこれ、使いたかったよ。


特に次男、偏食だったからね……。


 


でも、今はもう……あの子たち、どうしてるかな。


元気でいるといいな……。


 


◇ ◇ ◇


 


翌日。


村の周辺で、「魔物が出た」という話が入ってきた。


 


「えっ、魔物!? 私、洗濯と料理しかできないんですけど!?」


 


「ハルさん……! でも、あなたの“説教スキル”がありますよね!?」


 


「いや、それ本当に武器になるの!?」


 


半信半疑で現場に行くと――そこには、熊みたいな大きさのイノシシっぽい魔物が、村の畑を踏み荒らしていた。


わ、わ、こわ!!


でも、周りの村人たちは盾も槍も持ってるけど、びびって動けてない。


しょうがない。こうなったら――


 


「こらあああああっ!! いい加減にしなさーーーい!!」


 


説教スキル・全開発動!


……するとどうだろう。


魔物が、ピタッと動きを止めて、耳をぺたんと伏せて――


ぷるぷる震えて、ぽとっ、と地面に倒れた。


 


「え……倒れた……?」


「今のって……精神ダメージ……!?」


「“母の叱責”って、こんなに効くのか……」


 


え、なにそれ。


子ども叱るのと同じノリで魔物が倒れるって、どうなの。


……でも、勝った。


なんか勝った!!


 


◇ ◇ ◇


 


その晩。


村では“説教だけで魔物を倒した女”として、私はちょっとした英雄扱いになっていた。


子どもたちには「ママ、ちょっとうるさい」って言われてたのにねぇ。

それが今じゃ「救世主」って……人生って、わかんないもんだなあ。


 


でも――悪くない。


こっちの世界、けっこう楽しいかも。


 


「よーし、明日は収納スキルの練習してみようかなー! 荷物が全部しまえたら、買い物も楽だし♪」


 


異世界ママ、次なる戦いは――片付けです!

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