演目3『リザードの皿』
えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席。いぬがみ亭とうまで御座います。
えー、昨今、便利な世の中になりまして、使わなくなったものを簡単に売ったり買ったり出来る、『メカルリ』や『ヤクオフ』なんていうアプリもあるようでございます。
もちろん、素人が値段をつけて売るわけですから、安く売ったものが実はお宝だったなんてこともあるでしょうよ。プロの鑑定士が見たら、掘り出し物のお宝があるわけですから、そりゃぁ大喜びでございましょう。
ここ、剣と魔法の異世界にあります便利なスキル、『鑑定』。これを持ってる冒険者は、戦闘の傍ら、一攫千金を狙う。まあ、言ってみりゃあ、楽して儲けようって了見の持ち主でございますな。
ここに、テン・バイヤというDランクの冒険者がおりました。戦闘の腕はからっきしですが、鑑定スキルだけはAランク。本人は「スキルも実力のうちだ」なんて言っておりますが、要は人を出し抜いて儲けるのが好きな、少々抜け目のない男でございます。
その日、テン・バイヤはダンジョン帰りに、辺境の街道で一軒の古道具屋を見つけました。
テン (ふん、こんな場所に店が? 埃に埋もれたお宝が眠っているかもしれねぇな)
店に入ると、中は薄暗く、埃っぽい。店番をしているのは、腰の曲がった人の良さそうな爺さんが一人だけ。テン・バイヤは会釈もそこそこに、さっそく自慢の鑑定スキルを発動。店の中の品々を物色していきます。
テン (まずは、壁に掛かってるあの剣だな……鑑定!)
【鑑定結果:なまくら剣/レアリティ:ノーマル】
テン (……なんだよこりゃぁ、ウチの包丁の方がまだ切れるってんだ。次!)
【鑑定結果:水漏れのする壺/レアリティ:コモン】
テン (……水が漏れる壺だぁ? 壺としての基本機能がねぇ! 次だ、次!)
【鑑定結果:やたら重いだけの兜/レアリティ:コモン】
テン (……これを被ったら、首の骨がポッキリ。人生からログアウトしちまうぜ! ダメだこりゃ、ガラクタしかねぇ!)
うんざりして帰ろうとした、その時でございます。
カウンターの隅で、店主の爺さんが飼っている小さなリザードが、汚れた石の皿から水を飲んでいるのが目に留まりました。
テン (なんだあのトカゲは……まあ、ついでだ。鑑定!)
何気なくスキルを向けた瞬間、テン・バイヤの目に、まばゆい光と【レジェンダリー】の文字が飛び込んできた!
【鑑定結果:リザード(子供)/ランク:G】
【鑑定結果:神代の竜の鱗(劣化)/レアリティ:レジェンダリー】
テン (やった! やったぞ! で、出たーっ! レジェンダリー! こんなガラクタ屋で、神代の竜の鱗が、リザードの水飲み皿になってやがる! これさえ手に入れりゃあ、もう二度とゴブリンの棍棒に怯えなくてもいい! 金貨五〇〇〇枚はくだらない。こりゃ一生遊んで暮らせるぞ!)
テン・バイヤの内心は狂喜乱舞の雨あられ。ですが、テン・バイヤは必死にポーカーフェイスを保ち、ゆっくりと爺さんに近づきます。
テン 「いやぁ、ご主人。長旅で一人歩きってのも、どうにも寂しいもんでねぇ」
爺さん 「へえ、そうでございますか。お茶でも一杯いかがですかな?」
テン 「ああ、すまないな。……それよりご主人、カウンターの隅っこで水を飲んでる、あのリザードだが……」
爺さん 「へえ、このリザードが何か?」
テン 「こいつは、ただのリザードじゃない! このつぶらな瞳! 俺の荒んだ心を癒してくれる! まるで砂漠のオアシス、ダンジョンの最下層で見つけた回復の泉だ! この子には運命を感じる!」
爺さん 「はぁ……。さっきまでただのリザードだと思ってましたが、お客さんにそう言われると、なんだか後光が差して見えてきやしたな」
テン 「そうだ、ご主人! 気に入った! そのリザードを俺に売ってくれんか? 金貨三枚、どうだ!」
爺さんは、目をぱちくりさせて答えます。
爺さん 「へぇ、金貨三枚! そんなに! この子のどこがそんなに気に入ったんですかい?」
テン・バイヤは(しまった、価値を付けすぎたか!)と内心焦りながら、もっともらしい顔で言いました。
テン 「い、いや! 俺とこの子は、前世できっと同じパーティだったに違いねぇ! 俺が前衛で、こいつが後衛の……えーっと……そうだ、ヒーラーだ!」
爺さん 「はぁ……ヒーラーですか。こいつ、ヒーラーどころかすぐ噛みつきやがるんですがねぇ」
テン 「治癒したいからこそ噛みついて怪我をさせるんだ。そうに決まってる! とにかく、売ってくれ!」
爺さん 「はぁ……。お客さんがそんなに気に入ってくださったんなら、結構ですよ」
テン・バイヤはリザードと譲渡証明の木札を手にし、心の中で勝利の雄叫びを上げました。
テン (よし! あとは、とどめだ!)
爺さん 「ああ、そうだ、ご主人。ついでに頼みがあるんだが」
爺さん 「へえ、なんでございましょう」
テン 「この子がいつも水を飲んでる、この汚いその皿だがね。これが無いと、新しい環境で水を飲まないかもしれん。それじゃぁこいつが可哀想ってもんだ。これもついでに貰っていくとしよう」
そう言って皿に手を伸ばした瞬間、人の良さそうだった爺さんの笑顔が、すっと消えまして。テン・バイヤの手を遮るように、ゆっくりと皿を引き寄せました。
爺さん 「へえ、お客さん、毎度ありがとうございます。ですが、このお皿はこちらへ置いていってもらえますかね」
テン 「……な、何故だ? この子が可哀想だろうが」
爺さん 「いや、何しろこのお皿は、うちの大事な『看板商品』でしてねぇ」
テン 「か、看板商品? こんな汚い皿がかい?」
爺さん 「へえ。こうやって何気なく置いておくだけで、拾ったリザードが、金貨三枚で売れるんでございます」
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