第2話



「なんだか……魏軍がそこまで来ていることに全く気付いていないようでした……。

 村は確かに南北を縦貫しているようですし、旅人もそれなりに多いようでしたが」


「うん……」


 徐庶じょしょは長閑な空気の村を見た。


「確かにふもとからは一番遠くの村から訪ねてはみたけど。俺も魏軍到着をここの人たちが知らないのは意外だった。

 もっと東に戻ったら情報が来てるのかもしれないけど。

 北への旅人達が多いのに魏軍到着の報せが届いてないということは……」


「知った時に、南に戻って知らせようという人がいないんですね」


「そうだね。南に戻る時も、同じ道を通ってここには戻ってこないんだろう。

 臨洮りんとうから西も確かに南への道はあるけど、かなり険しくて危険だよ。

 そこを通ってるとは思えないんだが……」


 陸議りくぎは出店を珍しそうに見ている旅人達を眺めた。


「……赤壁せきへきで大敗したから、涼州りょうしゅうを攻める余地など今は無いだろうという風潮の方が強いようですね……。警戒が強く徹底抗戦の意志が強固ならば、こちらとしても先手を取る策を考えねばならないでしょうが……。

 この感じであれば軍が近づけば驚き、怯え、逃げ出す者も多いのでは。

 村を包囲するだけでも、効果はあるように思います」


「……そうだね。

 賈詡かく殿は奴隷としてでは無く、報酬を与える関係で村の人間を築城に駆り出したいと仰ってた。

 見たところ、村としての結束は固いように思う。

 村長や指導する立場の人間と話して、協力できたら……一番いいんだが」


 うん、と陸議は頷いた。


「そろそろ次の村に向かおうか」

「はい」


 二人は並んで歩き出す。


「先程の方の話では、韓遂かんすい殿よりも馬超ばちょう将軍を信頼してはおられるようですが、韓遂殿とも一定の協調関係にはあるようですね」


「うん。だけど、涼州騎馬隊が臨洮りんとう以南には滅多に出てこなくなったというのは気になる話だ。我々は……魏は、涼州騎馬隊が以前のように涼州全体を支配し、影響力を及ぼしている状態が一番困る」


「はい。最も困るのは北東から攻め込んだ魏軍と抗戦しながら、涼州騎馬隊がこのあたりを抜け、南のしょくと接触を持つことですからね」


「そうなんだ。

 そもそも抵抗があろうとなかろうと、韓遂殿と協議して涼州に残っている騎馬隊は北方に引いて貰うというのが当初の狙いだったから。

 本当に最近は涼州騎馬隊が臨洮以南に現れないのなら、早急に天水てんすいの本陣を羌道あたりに押し上げ、場合によっては【鳥鼠山ちょうそざん】にも陣を張った方がいいかもしれない……」


 徐庶が考えているようなので陸議りくぎは黙っていた。

 やがて彼は顔を上げる。


「街道沿いにいくつか村がまだあった。

 そこでも涼州騎馬隊を最近見ないという話を聞いたら一度調査を切り上げ、一番近い張遼ちょうりょう将軍の陣に向かおう。

 報せは早いほうがいい。

 帰りは少し、急ぐことになるけど」


「はい。大丈夫です。遅れずついて行きます」


 陸議がそう言ったので、徐庶は少し目を細めるように笑んで、頷いた。


「じゃあ、急いで元の道を……」


 村の入り口に向かって歩き出した徐庶がすぐに立ち止まった。

 急ごうとした矢先に立ち止まったので、思わず陸議は徐庶の背中にぶつかってしまった。


「す、すみません」


 徐庶が立ち止まって、どこかを見ている。

 前方だ。

 村の入り口である。


「……徐庶さん?」


 何を見ているのかなと思った時、正面から人が歩いてくるのが見えた。

 その人物も、何となく辺りを見回しながら村に入って来たが、正面で立ち止まっている徐庶に気付くと、立ち止まった。



「――――黄巌こうがん?」



「徐庶⁉」



 徐庶じょしょの声にも驚きがあったが、相手の方がずっと驚いたようだった。

 確かめるように勢いよく駆けてくる。


元直げんちょく! 本当に元直か? 驚いた! 久しぶりだな!」


「驚いたのはこっちだよ。風雅ふうが、きみの家はもっと北だからまさかこんなところで会うとは思ってなかったから……」


「元気だったか!」


 二人は驚いたようだったが、相手に間違いが無いと確信すると笑いながら友人同士は抱き合って再会を喜んでいる。

 陸議も突然のことで驚いたが、徐庶が「何人か涼州に友達がいる」と言っていたのを思い出し、その一人が彼なのだろうと思った。


 お互いの顔を覗き込んで本当に再会を確かめ、喜んでいるようだった。

 

 一瞬は呆気に取られたが、非常に仲が良さそうな様子に小さく笑みが漏れる。


 徐庶は孤独を纏うことがあったから、こうやってはしゃいで再会を喜ぶような相手がいたことに、少し安心したのだった。



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