くちびるのイタズラ
「ねえ、お兄ちゃん!」
休日の朝、リビングでテレビを見ていた智希に声をかける。
「ん?」
「次の願い、叶えたいんだけど」
私の言葉に、智希は少しだけ興味を持ったように顔を向ける。
「次の願いって?」
「一緒にプリ機で写真撮るの!」
「プリ機か……」
「うん!」
「……まあ、別にいいけど」
「やった! じゃあ今日、お出かけしよ!」
こうして、私たちは二人で街へ繰り出すことになった。
休日のショッピングモールは、家族連れやカップルでにぎわっていた。
「ここにプリ機があるんだよ!」
私はゲームセンターの奥にあるプリ機コーナーへと智希を引っ張る。
「お、おい……」
「さ、入ろ!」
私は智希の手を引いて、プリ機の中へと足を踏み入れた。
画面には可愛らしいフォントで「撮影スタート!」と表示されている。
「どうする? どんなポーズにする?」
「え、ポーズ?」
「プリ機って、いろんなポーズで撮るのが楽しいんだよ!」
智希は少し考え込むような顔をした。
「じゃあ、普通にピースとか?」
「それじゃつまんないよ! もっと楽しいポーズしよ!」
そう言って、私は智希の腕にしがみつくようにポーズを取った。
「はい、チーズ!」
カシャッ!
画面に映し出される私たちの姿。
「次はどうする?」
「じゃあ……ちょっとふざけてみるか」
兄はそう言うと、私の頭をポンポンと撫でるポーズを取る。
「わ、なんかお兄ちゃんらしい!」
カシャッ!
「次は……あ! じゃあ背中合わせ!」
「おお、いいな」
カシャッ!
「じゃあ最後は……」
私は次のポーズを考えていると——
突然、智希が私のほっぺに軽くキスをした。
「——っ!!?」
カシャッ!
私は一瞬、頭が真っ白になった。
「お、お兄ちゃん!?」
驚いて智希を見ると、智希は少し照れくさそうに笑っていた。
「……つい、ノリでやっちゃった」
「ノ、ノリで!?」
「嫌だったか?」
智希が私の顔を覗き込む。
「……」
嫌どころか、嬉しすぎて心臓が壊れそう。
な、なにこれ……!
ほっぺに残る兄の温もりがじんわりと広がっていく。
意識しすぎて、顔が熱い。鼓動が速すぎて、まともに息ができない。
「……嫌じゃ、ないけど……」
私は絞り出すように言った。
「ふぅん」
智希は少し満足げな顔をした。
ずるい……。
恥ずかしさに耐えきれず、私は思わず両手でほっぺを押さえた。
ど、どうしよう……! お兄ちゃんにキス、されちゃった……!
バクバクと跳ねる心臓。足元がふわふわして、立っているのがやっと。
嬉しい。嬉しすぎる。
けど、これって……どういう意味?
智希はあくまで「ノリ」だって言った。
そうだよね……。
でも、智希の表情を思い出す。
ちょっとだけ照れてた。
もしかして、お兄ちゃんも……?
いや、考えすぎだ。私は軽く頭を振る。
とにかく、落ち着かなきゃ……!
私は深呼吸し、次の作業に集中することにした。
落書きの時間。
「よーし、可愛くしよ!」
私はペンを手に取り、撮影した写真にいろいろ落書きをする。
「お兄ちゃん、何書いてるの?」
「ん? ちょっとしたコメント」
智希はニヤリと笑っている。
なんか嫌な予感……。
そして、完成したシールを見て——
「な、なにこれっ!?」
私は思わず叫んだ。
そこには——
「大好き♡」
なんて、書かれていた。
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「有紗も書いてるだろ」
「えっ!?」
私が自分の書いた部分を見ると、そこには——。
「ずっと一緒♡」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「……有紗、意外と大胆だな」
「お、お兄ちゃんこそ!!」
お互いに顔を赤くしながら、からかい合う。
でも、不思議と嫌な気はしなかった。
これも、大切な思い出……。
私は出来上がったシールをじっと見つめ、そっとバッグにしまった。
家に帰ると、私はまっすぐ自分の部屋に向かった。
扉を閉め、ベッドに腰掛ける。そして、そっとバッグの中から小さなシールを取り出した。
……。
指先でシールの表面をなぞる。
「大好き♡」
「ずっと一緒♡」
智希と一緒に書いた言葉が、くっきりと残っている。
そして、智希が私のほっぺにキスをした瞬間が写ったシール。
「……な、何これ……!」
思い出すだけで顔が熱くなる。
キスをされた瞬間が、鮮明によみがえった。
「——っ!」
私は思わずほっぺを両手で押さえた。
お、お兄ちゃん、ほんとに、したんだよね……?
ドキドキが止まらない。
くちびるで触れられた場所がじんわりと温かい気がして、手を当てたまま悶える。
「もぉぉぉ……!!」
ベッドの上でじたばたと足をばたつかせる。
嬉しくて、恥ずかしくて、どうしようもない。
ノリ、だったのかな……? それとも……。
いや、考えても答えは出ない。
ただひとつ、はっきりしているのは——
私は今、ものすごく幸せだということ。
シールをそっと胸に抱きしめる。
大切な思い出……ずっと大事にしよう。
心の中で、そっと誓った。
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