この感情は罪なの?

「ねぇ、有紗ってさ……お兄さんと仲良すぎじゃない?」


昼休み、教室で友達の麻衣とお弁当を食べていたとき、不意にそんな言葉を投げかけられた。


「えっ?」


「だってさ、お揃いのストラップつけてるし、この前も屋上で一緒にお昼食べてたでしょ?」


「う、うん……」


「普通、兄妹でそんなことする?」


「え……」


麻衣の言葉に、私は言葉を詰まらせた。


だって、お兄ちゃんと一緒にいることが当たり前だったから。


家でも、学校でも、お兄ちゃんといるのが自然だった。


それなのに――


「なんかさ、ちょっと普通の兄妹とは違う感じするんだよね」


「違和感あるっていうか、仲が良すぎるっていうか……」


「……そ、そんなことないよ!」


私は慌てて否定した。


「お兄ちゃんが優しいだけ! それに、一緒に住んでるし、自然と一緒にいるだけで……!」


「ふーん……?」


麻衣はじっと私の顔を見てくる。


「……ま、いいけどさ。でも、あんまり人前でベタベタしてると、変な噂立つかもよ?」


「っ……!」


私は何も言い返せなかった。




「ただいま……」


家に帰ると、いつもと変わらない玄関の光景が広がる。


「おかえり」


智希が、キッチンから顔を出した。


「今日は疲れた……?」


「え……? ううん、そんなことないよ!」


私は慌てて笑顔を作る。


「そっか。じゃあ、着替えたらお茶でも飲めよ」


「うん……ありがとう」


智希は何も気づいていないみたいだった。


私はそのまま自分の部屋へ向かい、ドアを閉める。


そして――


普通の兄妹じゃない、か。


私はベッドに倒れ込んで、天井を見つめた。


お兄ちゃんと一緒にいるのが楽しくて、お兄ちゃんが優しくしてくれるのが嬉しくて。


それって、兄妹だからじゃないの?


でも――


お兄ちゃんが他の女の子に優しくしていたら?


誰かと付き合うって言ったら?


誰かとキスしたら?


「……いやだ」


そんなの絶対にいやだ。


考えただけで胸が苦しくなる。


私が思ってる『好き』って、兄妹としての好き? それとも――


「……恋?」


自分の胸に手を当ててみる。


ドクンドクン、と、いつもより速い鼓動が聞こえる。


――私、お兄ちゃんのこと……好きなんだ。


それも、兄としてじゃなくて、ひとりの男の人として。


「……っ」


認めた瞬間、胸が締めつけられた。


これはいけないことなんじゃないの?


兄妹なのに。


血が繋がっているのに。


好きになっちゃいけないのに。


でも――


「……どうしても、好き」


どれだけ「いけない」と思っても、この気持ちは止められない。


お兄ちゃんの声が好き。

お兄ちゃんの笑顔が好き。

お兄ちゃんの全部が好き。


「……どうしよう」


自分の気持ちを自覚した途端、胸が張り裂けそうになった。


お兄ちゃんは、私のことを妹としてしか見ていない。


だから、この気持ちを伝えることはできない。


――でも、それでも、私はお兄ちゃんが好き。


この気持ちは、もう消せないんだ。



次の日の朝、私は鏡の前で制服のリボンを整えながら、昨日のことを思い出していた。


「あんまり人前でベタベタしてると、変な噂立つかもよ?」


麻衣の言葉が頭から離れない。


学校でお兄ちゃんと仲良くしすぎたら、周りから変に思われる。


そうしたら、お兄ちゃんにも迷惑がかかるかもしれない。


仲良くしすぎないほうがいいのかな……。


でも、そう考えた瞬間、胸が苦しくなった。


お兄ちゃんと話さないなんて嫌だ。

隣を歩けないなんて、もっと嫌だ。


「……この気持ちは、抑えられないよ」


私は小さく呟いた。


大好きな気持ちを我慢するなんて、できるわけない。


だから――


みんなにこの気持ちがバレないように、気をつけなきゃ。


お兄ちゃんと一緒にいたいから。

ずっとそばにいたいから。


この気持ちは、絶対に隠し通すんだ。


そう決意して、私は家を出た。

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