第7話 三流手品師への電話は魔王への報告より面倒くさい
「見つけたからには、
マジカルプリンス☆ホシノのウェブサイトに記載された電話番号を、芽はスマホに素早く打ち込んでいく。その行動に、剛は眉間の皺をさらに深くした。
「やめておけ。奴が正体を隠して生きているのなら、そっとしておくのが情けだ。ろくなことにならん」
「あら、心配してくれてるの? 優しいじゃない、ゴズ。でも、大丈夫。ろくなことにならない方が、面白いのよ」
芽は悪戯っぽく笑うと、通話ボタンをタップした。スピーカーモードに切り替えると、数回のコールの後、電話の向こうから陽気な男性の声が聞こえてきた。
『はいっ、お電話ありがとうございます! あなたの心に虹をかける、マジカルプリンス☆ホシノです! ご依頼は、パーティーですか? それとも、イベントかなっ? キラキラ~☆』
あまりに脳天気なその挨拶に、芽と剛は一瞬、言葉を失った。特に、語尾の「キラキラ~☆」は、聞いているだけで体中の力が抜けていくようだ。
芽は気を取り直すと、わざとらしく甘い声を作った。
「あ、もしもしぃ? マジカルプリンス☆ホシノさんのお電話ですかぁ?」
『そうだよ! 君に夢と希望をお届けする、ホシノだよ!』
「すごい! ファンなんですぅ!」
ひとしきり茶番を演じた後、芽はすっと声のトーンを変え、氷のように冷たい声で言った。
「――アストロ。まだそんな寒いセリフを本気で言ってるの? 私よ。メゼリアよ」
電話の向こうの空気が、凍った。
数秒の沈黙。そして、明らかに動揺し、裏返った声が聞こえてくる。
『ななな、何を言っているのかなっ!? ぼ、僕はホシノだよ! アストロなんて人は知らないなぁ! き、君、きっと人違いだ! キ、キラキラ~……☆』
最後の「キラキラ~☆」には、もはや何の威力もなかった。
「そう? じゃあ、エセル砦の攻防戦の時の話、今の事務所に教えてあげようか? 敵の矢を防ぐために張った『きらめきシールド』の術式をミスって、総司令官の兜を一日中ショッキングピンク色にした事件のこと」
『────っ!!』
電話の向こうで、相手が息を呑む音がはっきりと聞こえた。それはアストロ本人と、ごく一部の幹部しか知らない、彼の魔術師人生最大の汚点だった。
『……メ、メゼリア様!? なぜ……どうして……ご無事でいらっしゃったのですか!』
もはやマジカルプリンスの仮面は剥がれ落ち、そこにはかつての宮廷魔術師アストロの、泣きそうなほど情けない声だけがあった。
「ええ、まあね。それより、あなたこそ。ずいぶん楽しそうじゃない、プリンス様?」
『やめてください! その呼び方は!」
しばらくの沈黙の後、堰を切ったように、アストロの愚痴が溢れ出す。
「……楽しそうに見えますか? 子供たちの純粋な目は時に残酷で……、こちらの意図しないところで笑うのです! 手はいつもベタベタですし! 本物の芸術を理解しようともしませんし! それに比べて、与えられた芸をただ享受するだけの魔王様は、どれほど素晴らしい観客だったことか……!』
芽はその愚痴の洪水を適当に聞き流しながら、本題を切り出した。
「分かった、分かったから。近いうちに会いましょう。愚痴りたいことが、お互い山ほどあるでしょ?」
『……は、はい! ぜひ!』
「じゃあ、場所と時間はこっちで決めて連絡するわ。それじゃ」
一方的にそう告げると、芽は通話を終了した。そして、満足げに息をつくと、勝利の笑みを浮かべて剛を見た。
「ほら、一人目ゲット。魔王軍ブラック企業サバイバーズ、第一回同窓会の開催が決定ね」
剛は、もはや反論する気力もなかった。ただ、これから訪れるであろう、面倒くさい未来を想像し、うんざりとした顔で天を仰ぐ。
「……俺の静かな晩酌の時間が、あの三流手品師に汚されるのか」
その呟きは、これから始まる奇妙な同窓会の、最初の愚痴として夜空に虚しく響き渡った。
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