第34話 均衡境界
評議会本拠地の崩壊から1週間が過ぎた。
陽たちは影学園の中央ホールに集まっていた。かつての境界委員会の会議室は、以前の対立を超えたメンバーで溢れていた。
凛子が立ち上がり、会議を始めようとした瞬間、突然地面が揺れた。窓の外では、空が不自然な青紫色に染まっていた。
「またか?」零が眉をひそめた。
「日ごとに強くなっている」葵が報告書を見ながら言った。「『永久境界』の崩壊がこんな影響を与えるなんて……」
「都内12カ所の『位相転移点』で強い揺らぎが検出されています」蓮が報告した。「境界が不安定化し、2つの世界が無秩序に重なり始めている」
「蒼月の言っていたことは本当だったのかもしれない」陽は静かに言った。「『永久境界』を止めれば、境界は不安定化する」
「でもそれでも、彼のやり方は間違っていた」陽は続けた。「力を奪い、支配するためだけの『永久境界』は真の解決にはならなかったはずだ」
再び強い揺れが起き、会議室の書棚から本が落ちた。
「このままでは現実世界も影の世界も崩壊する」カイトが言った。
「緊急対策として、各『位相転移点』に安定化チームを派遣します」凛子が命令した。
「でも、それは一時的な措置に過ぎない」森下教授が懸念を示した。「根本的な解決が必要だ」
会議室は重い沈黙に包まれた。
その時、陽が立ち上がった。
「父さんの研究室に行きたい。何か手がかりがあるかもしれない」
◇
2時間後、陽、葵、零、奏の4人は、再び父の研究室に立っていた。
4人は研究室を隅々まで調査し始めた。
突然、外で強い衝撃波が走った。建物全体が揺れ、窓ガラスがひび割れた。
「境界の揺らぎがさらに強まっている」零が緊張した声で言った。「もうあまり時間がない」
陽は父の机を調べていた。そして最後の引き出しに、鍵のかかった小さな金属ケースを見つけた。
「これだ」
陽は左手首のブレスレットで鍵を開けた。中には1冊の小さなノートブックと、青白い結晶が入っていた。
「これは……」葵がノートブックを開き、驚きで見開かれた。「均衡境界の研究」
陽もノートを覗き込み、父の筆跡を見つけた。
『永久境界に対抗するために、私は『均衡境界』の研究を続けている。それは強制的な統合ではなく、2つの世界の安定した共存を可能にする方法だ。だが、その完成には致命的な問題がある。』
その次のページには、複雑な計算式と共に、大きな文字で書かれていた。
『均衡境界には強力な「真実顕現」の力が必要だ。そして、その力の持ち主の自己犠牲が……』
陽は息を呑んだ。
「僕が……犠牲になれば……」
「そんなことはさせない!」葵の声は震えていた。「別の方法を見つけるわ」
彼女は必死にノートの残りのページを読み進めた。最後のページには、別の筆跡で書かれた文があった。
『愛する息子へ。もしこれを読んでいるなら、私はもういない。だが、もう1つの方法を見つけた。自己犠牲の代わりに、強い絆を持つ者同士で力を分かち合えば、均衡境界は成立する。この結晶には私の「真偽操作」の力の一部を込めた。これを使い、新たな道を切り開け』
青い結晶が陽の手の中で強く輝いた。
「父さん……」陽の目に涙が溢れた。
再び強烈な揺れが起き、研究室の天井から破片が落ちてきた。
「戻ろう。この情報を凛子さんたちに」
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