第41話 犯罪奴隷、疑問を抱く
雨が降った翌日、明らかにコドハンの町は浮かれていた。
貯水池に行かなくてかまわないとカーソン氏からの伝達を受けたお嬢はうっきうきで朝から迷宮行きを決めこんだ。
雨が夕方過ぎまで続いたので少年は家に泊めた。
迷宮に潜る時は外泊もあり得るらしく一晩くらいは問題ないらしい。
俺たちに同行しているのは知っている訳だしな。
「シーアちゃん。オススメ迷宮はどこ?」
「どっかの迷宮行けばいいと思うわよ」
「どっか? 教えてくれないの?」
「ん? ああ、『毒花の迷宮』よ。最初のアシッドマイマイの迷宮。アンシーちゃんがお水あげてくれたから毒バナが元気らしいの。一階層はオルシーの花ね。毒素は強くないけど口にしちゃダメよ。採取はやり方を知らないと危ないわよー」
「食べないし」
「そーよねー。たまにいるんだ。パクッといっちゃう人。アレわっかんないわー」
そんな会話をしてから入る『毒花の迷宮』はオルシーの花が咲きこぼれる花の森と化していた。
小さな花が集まって玉のように咲く玉花の一種であるオルシーは白や緑。赤紫に水色まで色の幅がが広く、毒としての効能も少し違うのだそうだ。
毒は扱いによっては薬にもなるのだ。
「きれーい」
ほんのりとぼやけた青い天井(空)に鮮やかな緑は瑞々しく玉花はお嬢の足元から頭上までの高さのどこにでもある花の迷宮である。(有毒だが)
「この葉っぱは常設の採集依頼が出てるんだ」
少年がそういって一枚一枚葉の根元からナイフで切り落とし、数枚ごとに麻紐で束ねていく。
確か一束五枚で一束銅貨三枚だったか。
一階層での採集品はどうしても価格が抑えられるから。
お嬢が小さな通常アシッドマイマイを退治する横で採取しているわけであるが、ちゃんとお嬢の注意範囲外から出てきたアシッドマイマイには対応していたようなので一安心である。
花見をしつつ二階層へとおりる。
一度ぶちのめした変異種アシッドマイマイは復活していないようで、一階層より少しだけ大きなアシッドマイマイがのってりとオルシーの葉の上を這いずっている。
ぐずぐずとしたぬかるみを見たメイリーンがお嬢に「お水を」と頼む。魔力が蟠って変異種が発生しそうになっているらしい。
「一階層は通常状態だと思うんですけど、二階層はまだところどころで変異種発生の原因になる魔力だまりがありますね」
お嬢の流す水で魔力だまりは流れるらしいが、お嬢は常にここに居るわけではなく、むしろ近日中に領都というか実験農場に帰るのでまた魔力だまりはできてしまい、変異種が蔓延るということになるのではないか?
「昨日の雨も魔力を含まないただの水でしたから、全体的に魔力だまりは軽減したとは思うんですよね。興味深くはあります」
「ふぅん」
メイリーンの言葉のままに水を流しながらお嬢が興味があるのかないのか判別つきにくい相槌を返す。
「じゃあ、また来た時にどうなっているか楽しみだよね!」
ぱぁっと明るい笑顔で先を楽しみにするお嬢に潤んだ瞳で感動しているメイリーンを眺めておいた。
「じゃあ、三階層にもじゃばじゃば注いどいとこー」
うきうきと三階層への入り口に水を注ぐお嬢の姿はどこか地虫の穴に水を注ぐ悪戯っ子のようにも見えた。
「さすがお嬢さま、お優しい!」
メイリーンの声に不思議そうな少年もいたし、俺もどうかなぁって思うぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます