第31話 犯罪奴隷、かわいい魔物を狩る
今日は朝から神殿で神官様が望む場所に水を流し、そのまま少年を連れて迷宮管理局から迷宮に向かう。
『レベル壱』迷宮には違いないが昨日お嬢が受付嬢にもらったという色の違う入り口の鍵だ。
お嬢のレベルが順調に上がっているとはいえ、二階層より先に行くのはよくないとか適当なことを言っていた受付嬢。
メイリーンが「変異種狩りさせたいんでしょ」と言っていたがその通りだと思う。迷宮には今通常種より強い変異種が増えていて見習いと言われるレベル十五までの子供が入ることを危険視され禁止され気味だとのことだ。
狩る者が減れば変異種も増えるので悪循環だ。
辺境伯様の部下達は強めの迷宮、つまり『レベル壱』ではなく、『レベル伍』以降の迷宮が溢れないよう狩り、冒険者たちは『レベル参』以降の迷宮に入りがちらしい。
おそらく倒した成果に旨みが出るのがこのあたりだ。
だが、安定して『レベル参』の迷宮、しかも変異種有りで狩りをするのなら当人達のレベルは十五から二十の四人以上パーティが望ましくなる。
俺やメイリーンには簡単殲滅アシッドマイマイ変異種も一匹なら少年が対処できるだろうが、そこに敵が増えたら対応できず危険度が上がりそうである。そして多人数で狩りをすれば分配金は準備金で赤字になる。入場には金もかかるのだ。
つまり、初心者が育ち難い環境がこの迷宮の町では起こっていたようだ。受付嬢によれば大迷宮の町ガパルティでも同じ。むしろ差が酷くなっているらしい。
「さぁ! 新しい迷宮!」
やっぱり『レベル壱』だけどね。
ものすごく油断を誘ってくる変異種は難敵だった。
倒すと俺を『犯罪者め』と言わんばかりの目で見てくるお嬢とメイリーンに向き合うハメになるのだ。
俺は犯罪奴隷だし、メイリーン、おまえも犯罪奴隷だ。
どんなに可愛く愛想の良い愛玩動物のように見えても油断を誘っている変異種の魔物をちゃんと一掃しなければ危険は消えない。
ただお嬢も理解はしているらしく、仔猫だとか仔犬だとかを想起させる魔物の討伐を制止することはなかった。
通常の犬猫風魔物は凶悪顔で可愛くないからな。
変異種のように美しい毛並みと潤んだ瞳で見上げて「にゃ」や「きゅう」と鳴かれると攻撃する手がブレやすいのはどうしようもないんだけどな。
一階層の変異種を狩り尽くし、お嬢の水やりの成果が出たのはかわいくない凶悪そうな小動物風魔物が現れたことで分かった。
「ねぇ、ジェフ。かわいそう」
いまいちな外見の魔物でも狩るのには抵抗が出来てしまったお嬢に俺としては「じゃあ、アシッドマイマイの迷宮に行くようにしますか?」と提案するしかないのである。
ちなみに少年はがっつりと倒して毛皮を集めている。毛皮は換金率が良いので。
アシッドマイマイ退治より狩り速度はゆっくりだったが、無事レベルは七に上がり、少年のレベルも十四に上がった。
渋り気味のお嬢に少年が「狩場の選り好み? いくら可愛くても魔物は魔物だし、テイムのスキル、持ってるわけじゃないだろ? 変異種や強化種が『レベル壱』迷宮にいたら見習い冒険者がすぐ死ぬってギルドのおっさんたちが言ってたからお嬢さんが迷宮を通常に戻してんのは俺らたすかんだよ」と俺とメイリーンを見てきた。
変異種が減ったら狩りはしやすいだろうしな。
「ふぅん。じゃあ今日は冒険者ギルドに毛皮売りに行く?」
「え。寄ってくれたら、そりゃ助かるけど。あー、今日の依頼チェックしてからお嬢さん待ってればよかったー」
お嬢の活動は朝イチというより朝二だから神殿での水撒き前に少年が冒険者ギルドに走って見てきて戻ってくるのはおそらくたやすいだろう。
「でも、今日の迷宮は朝の段階では不明だったからあんまり意味ないと思うよー?」
笑うお嬢に少年が否定する。
「薬草が要るとか石がいるとか依頼の傾向を最近確認してなかったからさ。その物じゃなくても迷宮産の類似品なら求められているケースもあるんだ」
ああ、代用品になる可能性があるからか。
「遅い時間に行ってらもう内容わかんないの?」
「モノによっては数日貼ってあったり、常にあったりする。水の出る魔道具が出たら高価買取とかさ」
「ふぅん。じゃあ、行ったら見れるんだね。じゃあ、今日はギルドの出口使お。ジェフもメイリーンもそれでいい?」
「そう、ですね」
そう言って微笑むメイリーンが二階層にそっと足を伸ばして変異種の魔核を大量に袋に詰めてきたのを見ないフリをした。売るのは一部らしい。
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