第21話 犯罪奴隷、レベルアップをたたえる

 出てきた魔物がレベル1のアシッドマイマイ(魔力変異種)だったので俺とメイリーンでぶちのめしている。

 お嬢が出番がないと不貞腐れているが相手はレベル1とはいえアシッドマイマイ。毒攻撃をしてくる魔物である。

 メイリーンがせん滅すればいいとばかりに排除しているがお嬢がどんどん不貞腐れていく。

 これはアレだ。

 なにもできないってヤツ。

 お嬢がずっとイヤだと思いつつ、守られているのだからとじっと我慢していた案件だ。ようやくレベル上げのために頑張れると思った端から水をさされているにも程があるだろう。

 メイリーン、ちょっと気がつけ。

 キツい眼差しが俺を射る。


「砂っぽいからちょっとお水撒くね」


 タンと呟いた言葉と共にヒビ割れた地面に水が流される。透明な水が焦げた地面に触れて黒い染みを残し消える。よほど乾いているのか染みが広がる気配がない。

 ただ、なぜか枯れ蔓がじりじりと後退する。


「水に魔力が含まれていないから逃げているみたい」


 メイリーンの言によるなら魔力を好むらしい枯れ蔓は逃げるがアシッドマイマイは魔力より黒い染みが気になるのか近づいてくる。

 毒性が強いならあまり接近は好ましくない。


「カタツムリだもんねぇ」


 お嬢がまたちょっとズレた場所で水を流す。

 枯葉や枯草に潤いを与えるように。

 カタツムリ。

 マイマイの別称だと思う。

 水とマイマイの関係性がいまいち理解できない。

 マイマイがキラキラした粘液の痕跡を残しながらにじり寄ってくる。

 お嬢はまたすこしはなれた位置に行って水を流す。

 別に魔法陣を描いているわけではないようでメイリーンもマイマイをぶちのめしながら小首を傾げてお嬢を観察している。


 繰り返すうちにメイリーンが何かに気がついたように声をあげた。


「お嬢さま! 棍棒で地面ばーんです!」


 ばーんっておい。


「え、う? うん!」


 いきなりの声に驚いたお嬢が左に持っていた棍棒を握り直し右手を添えてとりあえずそこに振り下ろした。メイリーンが魔法で補助もしたようだ。器用だな。メイリーン。


「流石です! お嬢さま!」


 おまえ誘導しただろうなんて野暮なことは言わない。


「さすが。お嬢。いい感じの振り下ろし!」


 褒め称えるとも。


「えっと、レベル上がったよ」


 お嬢が照れくさそうに報告してくれる。


「おめでとうございます! お嬢さま!!」


「えへへ。ありがとう」


 ちょっと上目遣いで俺を見てくる。


「がんばりましたね。毒に気をつけてアシッドマイマイ叩いていきましょうか」


「うん!」


 アシッドマイマイは毒液攻撃以外には押し潰し攻撃だし、動きは落ち着いてさえいれば対応できるゆっくり動作。

 群れられれば面倒だが、群れられる前にメイリーンか俺が散らせば問題ないだろう。

 ただ、魔力変異種は硬く、お嬢の力では倒せないので新たに生まれ出るノーマルアシッドマイマイが好ましい。

 もちろん、叩くだけなら変異種アシッドマイマイでも大丈夫!

 倒せないけどな。


「コレ、なぁに? ジェフ、メイリーン」


 拾い上げ、差し出してくるのはキラキラしたアシッドマイマイの殻。それとアシッドマイマイの魔核(十個で銅貨一枚)


「アシッドマイマイの殻とマイマイの魔核ですね。アシッドマイマイの殻はボタンに加工されたり、毒を通さない性質があるから砕いて濾過剤に使われるんですよ」


 メイリーンが解説する。

 濾過剤、アシッドマイマイの殻で出来てたのか。


「ボタン?」


「キラキラして綺麗なボタンができるんですよ」



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