第16話 犯罪奴隷、とまどう
コドハンの街に着き役所と冒険者ギルドに迷宮の探索申請を提出した後は拠点に案内されとりあえず荷物を置いた。(ストレージバッグに入らないテントなど)
使用人の少女、役所付きの借金労働者ザナが掃除や使用後の手入れ、頼んでおけば食事の手配をしてくれるらしい。
兵士が帰ったあとやってきた役所の役人(すでに挨拶済み)と神殿の神官らしき男がお嬢を連れ出しに来たのでメイリーンが伴われて出掛けていった。
「お嬢さま、攻撃魔法まだ覚えてらっしゃらないんですか?」
悪意のない疑問というヤツだろう。
「まぁな。適性の関係もあるしな」
濁しておくと納得したように「そうですね」と頷いていた。
何度か使用したテントは薄汚れて、なるべく払っておいたとはいえ土の残りもあり錆が浮きはじめていた。
お任せ下さいと言うザナに任せて家の様子と周囲を確認することにした。
さほど大きな家ではないと言われても二階建ての庭付き一軒家である。近所と隣あっていることもありきっちりと高めの壁で区切られている。
壁の上には鼠返しのように庇があり、道ゆく人に日陰を提供している。
広いとも言えない庭の向こうは水路が通っている。水が少ないせいか見下ろせば底が見えそうだ。側面に人が出入りできそうなサイズの鉄格子がいくつか見える。庭の位置を一階とするなら地下三階分水路の管理通路があると言うことだろうか。迷宮があるとはいえ、この規模の街の設備とは到底思えない。
覗き込んでいるとゴッと音がした。
ざぁあああと音を立てて水路の水量が上がっていく。
もし、管理通路に人が居たら溺れてしまうことも考えられる勢いだ。一番深い部分は沈んだ。二番目も半分は沈んでいる。
『ただ水を流すだけ』
それがお嬢の適性がお嬢に与えた能力だ。
水に流されることで倒れた魔物や魔獣はお嬢が倒したことにならず、経験値にはならない。
もしこれが有効ならお嬢のレベルが四であることはないだろうから。
しばらく水路を見ているとゆっくり水嵩が下がり二番目の足元付近に水を残す程度で流れが落ち着いた。
底は濁っていて見えない。
これがレベル四のお嬢の魔力……。
魔力の含まれていないただの水。殺傷能力も聖浄化能力もないただの水。
いや、水圧と水流で十分に死ねるから。攻撃性がない? 気のせいだ。
ただ、実際に水として存在しはじめた時点でお嬢の手からはずれる水で、それがどれほどの攻撃力、効力を持ったとしてもお嬢の経験値には関与しないというものすごくハズレスキルである。お嬢にとって。
まぁ、鉄砲水で人の集落ひとつふたつ沈めてもお嬢の犯行である。という証拠が残らない力でもある。
普通に魔法で都市破壊すると魔力痕跡で個人特定されるモノらしいからな。
「あ。ジェフさん、そこに居られたんですね。わぁ、いい風が吹いてますね。こんな気分が良くなる風はずいぶん久しぶりな気がします」
背後からザナに声を掛けられたので振り返る。
水気を含んだ涼しい風を浴びて微笑みながらほろほろと涙をこぼす少女と向き合うハメになった俺としては慌てる。
慌てるしかないだろう?
「ザナ、大丈夫か?」
「え? なにがで……え? あれ? なんで? あ、ごめんなさい」
顔を覆って屋内に戻るザナを見送る。
いや、追いかけてどうしたらいいのかわからないしな。
間をおこうと思う。
水路から魔物が上がってくることはなさそうなことを確認し、屋内に戻る。
ザナが「さきほどは失礼いたしました」と頭を下げてくる。
人は思わぬ状況で感情の昂りを感じることもあるものだから気にするには及ばないことだ。
俺には関係ないのだから。
「食糧庫には保冷のストレージボックスを使用していますのでお好きにお使いくださいね。入っている物のリストは箱の内側に表記されますから、表記を触ると出てくるのがおもしろいですよ」
軽く保冷箱の説明をうける。
たぶん迷宮でドロップしたお宝なのだろう。便利だと思う。
たぶん、お嬢が喜ぶだろう。
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