第六章 芽生える想いと穏やかな日々
「辺境の聖女」として認められた私の生活は、一変しました。カイル様の騎士団は、村の一角に清潔な小さな家を用意してくれ、その庭には、薬草を育てるための小さな畑まで作ってくれました。
私が【超過浄化】の力で清めた土地で育つハーブは、不思議なことに、通常のものよりもずっと薬効が高いことが分かりました。私はそのハーブを煎じて、瘴気で体調を崩していた村人たちに配りました。すると、皆みるみるうちに元気を取り戻していったのです。
村は活気を取り戻し、人々の顔には笑顔が増えました。子供たちの笑い声が響き、大人たちは畑仕事に精を出す。そんな穏やかな光景を見ていると、私の胸も温かくなりました。
カイル様は、騎士団長としての仕事で忙しいはずなのに、毎日必ず私の様子を見に来てくれました。
「体調に変わりはないか」
「何か困っていることは?」
口調は相変わらずぶっきらぼうですが、その言葉の端々には、私を気遣う優しさが滲んでいます。彼が持ってきてくれる珍しいお菓子や、温かい毛布。一つ一つが、私の心をじんわりと温めてくれました。
ある晴れた日の午後、私は薬草園の手入れをしていました。そこに、カイル様がやってきます。
「リナ。少し、休憩しないか」
彼はそう言うと、私が淹れたハーブティーを一口飲み、ふう、と息をつきました。
「お前の淹れる茶は、美味いな。疲れが取れる」
「お口に合って、よかったです」
そう答えると、彼はじっと私の顔を見つめました。その真剣な眼差しに、心臓がどきりと跳ねます。
「最近、よく笑うようになったな」
「え……?」
「ここに来たばかりの頃は、今にも消えてしまいそうな顔をしていた」
カイル様は、私の髪にそっと触れました。彼の大きな指先が頬をかすめ、顔に熱が集まるのを感じます。
「今の顔の方が、ずっといい」
その言葉と優しい眼差しに、私はどうしていいか分からなくなり、俯いてしまいました。心臓が、早鐘のように鳴り響いています。
この人は、いつも私をまっすぐに見てくれる。私の良いところを見つけて、褒めてくれる。誰も私を見てくれなかった世界で、この人だけが、私を「リナ」として見てくれる。
その事実に気づいた時、私の心の中に、今まで知らなかった感情が芽生えていることを自覚しました。
尊敬、感謝、そして……恋。
この無愛想で、不器用で、でも誰よりも優しい騎士団長様のことが、私は好きなんだ。
その想いを自覚した途端、カイル様の顔をまともに見られなくなってしまいました。赤くなった顔を隠すように薬草を摘む私を、彼は困ったような、でもどこか嬉しそうな顔で見つめていました。
辺境の穏やかな日差しの中で、二人の間には、言葉にしなくても伝わる、温かくて甘い空気が流れていたのです。
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