番外編2:アルベルト視点「失った輝き」
王宮を追放され、リリアと共に王都の片隅にある薄汚い安アパートで暮らすようになってから、どれくらいの月日が経っただろうか。
窓の外は、今日も雨だ。冷たい雨が、俺の心の荒みきった風景を映し出すかのように、しとしとと降り続いている。
リリアは、隣の部屋で泣き喚いている。「こんな生活は嫌!」「なぜ私がこんな目に!」と。聞き飽きたヒステリーだ。かつて天使のように見えた彼女の素顔は、ただの我儘で自己中心的な、愚かな女だった。
すべては、俺の過ちだ。
リリアの甘言に乗り、エリアナを追放した、あの卒業パーティの日。あれが、すべての終わりの始まりだった。
エリアナ。
その名を思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。
彼女がいた頃、俺の世界は輝いていた。俺がどんなに無茶なことを言っても、彼女は呆れた顔をしながらも、必ず道筋をつけてくれた。俺が気づかない国の問題を先回りして解決し、俺の評判を陰で支えてくれていた。
彼女の存在は、まるで空気のようだった。あまりに当たり前にそこにあったから、その大切さに気づくことができなかった。失って初めて、呼吸ができないほどの苦しさを知った。
辺境の街フルールで、彼女が隣国の騎士団長に求婚されたと聞いた時、俺は嫉妬と後悔で気が狂いそうになった。俺が捨てた宝物を、いとも容易く、他の男が手に入れてしまった。
みっともなく彼女を取り戻しに行った時のことを思い出す。
「もう、あなたの知る私ではありません」
そう言った彼女の瞳は、かつて俺に向けていたものとはまったく違っていた。冷たく、そして揺るぎない決意に満ちていた。彼女はもう、俺のことなど見ていなかった。彼女が見ていたのは、彼女の隣に立つ、あの「氷の騎士」だけ。
あの騎士は、エリアナの本当の価値を、正しく理解していたのだ。俺が見抜けなかった、彼女の聡明さ、優しさ、そして強さを。
結局、俺は何もかも失った。
地位も、名誉も、そして何より、俺を心から支えてくれていたはずの、かけがえのない存在も。
今ならわかる。エリアナが悪役令嬢を演じていたことも。彼女が俺から離れたがっていたことも。俺は、彼女に愛されてすらいなかったのかもしれない。ただ、国のために、義務として、俺の隣にいてくれただけ。
だが、それでもよかった。
彼女が隣で、あの涼やかな顔で小言を言ってくれるだけで、俺は王でいられたのだ。
窓ガラスを伝う雨粒が、まるで涙のように見える。
もし、時間を戻せるのなら。
もう一度、彼女が隣で笑ってくれるのなら。
しかし、そんな願いが叶うはずもない。
俺は、自らが捨てた輝きを、遠い空の下で思い続けることしかできない。深い後悔と絶望という、終わりのない闇の中で。
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