第11章:愚か者たちのざまぁ
私とカイ様の婚約は、すぐにシルヴァーナ帝国に伝えられ、正式なものとなった。帝国からの使者がフルールの街を訪れ、私を未来の騎士団長夫人として丁重に遇する様子は、あっという間に街中の噂となった。
そして、その噂は当然のように、アステル王国の王宮にも届いた。
ある日、私の「陽だまりの薬草箱」の前に、見慣れた王家の紋章が入った豪華な馬車が止まった。中から現れたのは、憔悴しきった様子のアルベルト王子と、不機嫌そうな顔で扇子を煽ぐリリアだった。
「エリアナ!」
店に踏み込んできたアルベルト王子は、私の名前を叫ぶなり、私の腕を掴もうとした。しかし、その手は私に届く前に、音もなく現れたカイ様によって阻まれた。
「アルベルト王子。私の婚約者に、気安く触れないでいただきたい」
カイ様の冷たい声に、アルベルト王子は怯んだように後ずさる。その後ろで、リリアが甲高い声を上げた。
「なんですの、あなた! エリアナはもともとアルベルト様の婚約者だったのよ! それを横から奪い取るなんて、泥棒猫と同じですわ!」
その言葉に、私は静かに首を横に振った。
「リリア様、勘違いなさらないで。私を捨てたのは、あなた方です。そして私は今、心から愛する方と共に、新しい人生を歩み始めています。もう、あなたの知る私ではありません」
私の毅然とした態度に、アルベルト王子は絶望したような顔になる。
「エリアナ、頼む、帰ってきてくれ! 君がいなければ、国が……! 俺には、君が必要なんだ!」
みっともなく復縁を迫る元婚約者。その姿には、哀れみすら感じなかった。
「お断りします。あなたがたがどうなろうと、私にはもう関係ありません」
「な……っ!」
言葉を失うアルベルト王子に、カイ様が追い打ちをかける。
「アルベルト王子。エリアナ・ヴァイス嬢の身柄は、本日をもってシルヴァーナ帝国が正式に保護する。彼女は我が帝国の騎士団長たる、このカイ・フォン・シルヴァーナの妃となる御方。今後一切の接触を禁ずる。もしこの警告を無視するようならば、アステル王国への宣戦布告と見なすが、よろしいか?」
「せ、宣戦布告……!?」
カイ様の言葉は、単なる脅しではなかった。彼の背後には、いつの間にか屈強な帝国の騎士たちがずらりと並んでいる。その圧倒的な武力を前に、アルベルト王子とリリアは顔面蒼白になるしかなかった。
「お、覚えてなさい……!」
リリアは捨て台詞を残すと、アルベルト王子の腕を引いて馬車に逃げ帰っていった。その背中は、あまりにも小さく、惨めに見えた。
彼らが王都へ逃げ帰った後の話は、商人たちから風の噂で聞いた。
エリアナを取り戻すことに失敗し、あまつさえ隣国から宣戦布告までちらつかされたアルベルト王子は、完全に権威を失墜した。これを好機と見た貴族たちは、ここぞとばかりに彼の失政を糾弾し、王位継承権の剥奪を要求。王もそれを認めざるを得ず、アルベルト王子はすべての地位を失い、王宮から追放された。
そして、彼の寵愛だけが頼りだったリリアもまた、国を傾かせた元凶として断罪された。彼女の実家である男爵家も取り潰され、二人は平民として王都の片隅で暮らすことになったという。
プライドだけは高い元王子と、贅沢しか知らない元男爵令嬢。彼らの未来が、決して明るいものではないことだけは、確かだった。
自らの愚かな選択によって、すべてを失った二人。これ以上ないほどの「ざまぁ」な結末だったが、私の心には何の感慨も湧かなかった。
私の視線の先には、ただ、私を優しく見守るカイ様の姿があるだけだったからだ。
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