第2話秘密を抱えたまま

美虎が静かに言った。

「シングルマザーか……大変だったな」

美虎は一瞬驚きの色を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

その言葉が胸の奥に刺さる。

彼はまだ知らない。

陽菜が、彼の娘だということを。


「ありがとう」

美音は精一杯の笑顔で応えた。

でも、心はざわつき続けている。


「俺も、結婚して同い年くらいの子がいるよ」


その一言で、息が詰まりそうになった。


――結婚してる。

――同じくらいの子どもがいる。


彼の笑顔が遠く感じた。

過去に戻れたら、違う選択ができたのだろうか。


美音はその問いを飲み込み、深く息をついた。

「ママ、今日の入学式、すごく楽しかったよ。

友達もできたし、先生かっこいいし、これから楽しみだよ!」


陽菜の無邪気な笑顔を見て、美音はぎゅっと胸が締めつけられた。

“あの人が、娘の担任なんて――”

複雑な思いが胸の奥で渦巻く。


「そう…よかったね」

美音は精一杯の笑みを返すが、心の中は揺れていた。


“どうして、こんな再会が起きるの?”

“私たちの秘密は、いつか壊れてしまうのだろうか。”

“不安と期待が入り混じった、これからの毎日をどう乗り越えればいいのだろう。”


夕暮れが部屋に柔らかく差し込み、

美音は陽菜の頭をそっと撫でた。

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