娘の担任は、元恋人
手毬みん。
第1話担任の先生は、娘の父親でした
桜の花びらが、春風に舞っていた。
娘の手をぎゅっと握りしめながら、私は校門をくぐる。
――この日を、何度夢見ただろう。
小さく産まれたあの子が、もう中学生になる。
シングルマザーとして必死に生きた14年。
やっと、少し肩の力を抜けると思っていた。
「ママ、見て! 桜、きれい!」
陽菜が笑顔で言う。その無邪気さに、私は胸が温かくなる。
……そう、この笑顔を守るために、私は頑張ってきたんだ。
式が始まる前、保護者席に座った私は、
クラス担任の発表をぼんやりと聞き流していた。
娘はどんな先生に出会うんだろう――
そんなことを考えていた、その時。
「担任の鹿間美虎です。一年間、よろしくお願いします。」
――え?
その声を聞いた瞬間、
時間が止まった。
教壇に立つその人を見た瞬間、
心臓が暴れだした。
黒板にチョークで名前を書く、すらりとした指。
落ち着いた声。
そして、何よりその名前。
――鹿間美虎。
忘れたことなんて、一度もなかった。
二十歳のあの日、泣きながら別れを告げた彼。
別れた直後に知った命の存在。
何度も電話をかけようとした。
でも、彼にはもう「新しい恋人」がいた。
幸せそうな写真を見て、言えなくなった。
言ったら、彼の人生を壊すと思った。
だから私は、全部一人で背負った。
彼の知らないところで、娘を産んで、育てた。
――その彼が、今、
娘の担任として、目の前にいる。
「……ママ? どうしたの?」
陽菜の声に、我に返る。
必死に笑顔を作るけれど、
胸の奥で渦巻く動揺は隠せなかった。
彼はまだ気づいていない。
保護者席に、かつての恋人がいることも、
陽菜が自分の娘であることも。
入学式が終わり、校庭で写真を撮る親子たち。
私は陽菜の隣で笑顔を作ったけれど、
ふと視線を感じて顔を上げると――
彼がこちらを見ていた。
一瞬だけ、目が合った。
懐かしい目。
でも、その視線に気づいた私は、
慌てて視線を逸らした。
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