第29話 新しい問題

 あっさりとジェイクと婚約することになった。

 『返事』をもらった後、いつものように帰宅すると、お父さまも都から帰ってきたところだった。ジェイクのお父様も付き添っている。


 その場でジェイクは「旦那様」とお父さまを呼び止めた。「お話があります」と。


「どうしたんだ、改まって」


「お嬢様と、将来、結婚させていただきたいのです」


 神経な眼差しで単刀直入にジェイクは言った。

 だから、この人は、タイミング――!

 私はあたふたとお父さまに自分の言い分を捕捉した。


「私は、ジェイクのことが好きなの。もちろん、お父さまの決めた相手と結婚するべきだとは思っているわ。けれど、ジェイクは特別でしょう? ジェイクがいなかったら、私、ここにいなかったかもしれないし、マーティン様も、ジェイクが望むなら地位を用意するっておっしゃってくれて、」


 どうにかこうにか説得しようと言葉を並べる私を「エリス」とお父さまは制止した。


「こうなるとは、思っていた。なんとなく」


「……そうなの?」


「ああ」と頷くお父様の後ろで、ジェイクのお父様も頷いている。


「陛下やマーティン様も交えて、今後のことは話し合おう」


 お父様はジェイクの肩を叩くと微笑んだ。


「旦那様――! ありがとうございます」


 頭を下げたジェイクは、それからぱっと顔を上げると、


「お疲れでしょうからお茶を淹れて参ります」


 とてきぱきと動き出した。

 お父様は困ったように頭を掻くと「頼むよ」と笑って私を見た。


「とりあえずは、今までどおりでいこうか」


「そうね」と頷く。今後の一番の課題は、ジェイクが【旦那様】になってくれるかどうかかもしれない。


***


 私の侍女であるアンナには事の次第を伝えた。


「まあジェイクと――、私たち、ジェイクのことをどう呼んだらいいのかしら」


「とりあえずは、今まで通りでよいと、思うけど」


「でも」とアンナは頷いた。


「ジェイクが結婚してくれるのはありがたいです。ほら、あの人が身を固めてくれないと、若い子を雇えないんですよ」


「――そんな気はしていたけど……」


 うちの屋敷の侍女やメイドは皆家庭がある女性ばかりだ。

 うわさでは過去に雇った数人がジェイクに気持ちを寄せて仕事にならなくなってしまったようで、トラブルを防ぐために若い未婚の女性は雇わないようになったと聞いていたけれど。


「でも、『旦那様』っていうのは変な感じですねえ」


 アンナは可笑しそうに笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る