ヤンデレな妹とさいごを共にするまで
根尾レイ
1章:ヤンデレ姉妹のはじまり
第1話 どうして話したの?
「ただいまー!おねぇちゃん!」
「ああ、おかえりメイ…」
家の中で保たれていた沈黙を破るかのように私の双子の妹、メイは大声で帰りを知らせる。
いつもより遅い時間であったため、何か事故でもあったんじゃないかと心配したが、この調子だと大丈夫そうだ。
「帰り遅かったね…なにか、あったの?」
「ふっふふ〜!おねぇちゃんには秘密!」
いつもこれだ。なにかあったの?と聞いてもずっとはぐらかす。いつもはほぼ決まった時間に学校から帰ってくるメイだ。なにもなかったわけがない。
「それよりもさ、おねぇちゃん。なにか私に言うべきこと、あるんじゃないかな?」
「え?なんのこ…うぐっ、うあっ…か、は…っ!」
私が話しているにも関わらず、メイは私の首を急に絞め出す。急だったため準備が出来ず、いつもより苦しい。
「とぼけないでよ!ねぇ!わかってんだろ?わかってんでしょ?ねぇ!?」
「う…ぐっ…!ぉ、あ…」
私の意識とは反比例するかのようにメイの私の首を絞める力は強くなる。
メイが声と口調を荒げて怒る原因は一つしかない。
「ごえ…んなあ…い…はな、いて……げほっ!はぁ…はぁ…」
上手く回らない意識と口で必死に謝罪の言葉を綴りなんとか首から手を離してもらえた。肩で呼吸を繰り返し、謝罪を述べる準備をする。
「ふーん。じゃあ何が悪かったか言ってよ。全部言えないなら次は容赦しない」
「はぁ…はぁ…えっと…」
「はやく」
普段の優しい目つきからは想像もつかないほど鋭い眼光で私を晒す。
「っ…!ま、まずはクラスメイトと話したことと、それを黙ってたことと…」
「それから?」
「それから…メイに聞かれた時にとぼけたことと…首輪を…さっきまで外してたことです…」
「最後は知らなかったなぁ〜でもまあ全部言ってくれてありがとう。愛してるよおねぇちゃん」
さっきまで首を絞められていたのに、たった一言「愛してる」だけで全てどうでもよくなる。この瞬間が訪れる度に、私の心はメイに支配されているんだと自覚する。
「でもぉ〜?悪いことしちゃったおねぇちゃんには…お仕置きが必要だよね?」
「お、お仕置き…?」
とぼけている私ではあるがお仕置きと聞いてされることは一つ。
「そこに膝立ちして」
私はメイの目の前に跪くように座らせられる。視線を上に向けると楽しそうなメイの顔。その楽しさに比例しているかのように私の首に回された両手は11月の気温によって冷やされた体をあたためる。
一瞬。ほんの一瞬だけそのあたたかさに安堵する。しかし次の瞬間、そのあたたかさは《熱さ》に変わる。
「うっ…!あぐぅあ…ほぉ…!くぅっ…」
「…あはっ……やっぱりおねぇちゃんはその顔が一番可愛いよ…手、離してあげる」
また首を絞められる。さっきよりも数段強く。
私たちの中で特にルールは決めていないのだが、《お仕置き》というのは《首絞め》に値する。無論、私はしたことはない。いつもメイが言いがかりをつけて私の首を絞める。
「はーい息吸ってー吐いてー。また吸ってー吐いてー。じゃあまたいくよ」
「…ぅ゛っ…ぐ、げっ…げほっ…ま、まっえ…
あ゛っ…!ぐっ…ひっ……っぐ…」
私がいくら静止の言葉を必死に投げかけても聞く耳を持たない。その後も意識が途切れそうになるギリギリを狙って手を離す。気絶という逃げ道にすら向かわせてくれない。
「…もう、いいかな」
「かはっ…!はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
何度も何度も首を絞められ、やっとお気に召してくれたのか手を離した後も首を絞められなかった。
「おねぇちゃんの苦しそうな顔大好き♡…また絞めてもいい?」
「えあぁ……おえ…」
「うふっ!ありがとうおねぇちゃん!」
薄れていく意識の中、かすかにメイの恍惚とした顔が見えた。この顔を私にしか見せていないのだとしたら首も絞められて良いのかもしれない。
その後次第にメイの声は聞こえなくなり私の意識は深い闇に堕ちていった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「おねぇちゃん一緒にねよ!」
「う、うん…いいよ…」
メイが言うには私はあの後小一時間くらい眠っていたらしくその間、夕飯の準備や風呂を沸かしてくれていたらしい。
お湯が冷めてはいけないと思い先に風呂に入った。一緒に風呂に入りお互いの体を洗った。メイが私の首に触るたび先ほどのことを思い出し体が震える。その様子を見破られ、かわいいよおねぇちゃんと言われてしまった。
ドライヤーで髪を乾かし夕飯を並べられた食卓につく。少し冷たくなっていたが、それでもメイの料理はおいしい。冷たくてもメイの暖かみを感じる。
その後はテレビを見たりゴロゴロして過ごし寝る時間がやってきた。
私は棚から手錠を取り出し自分の右手首につけ、残ったもう片方を今度はメイの左手首につけてあげる。
「えへへ〜ありがとおねぇちゃん」
私は寝る時いつも手錠をつけて眠る。これはメイが昔、寝るのが怖いと言った日からずっと続いている。小学校の林間学校でも、中学校の修学旅行の時も、そして来年ある高校の修学旅行でもつける予定だ。
もちろん、同級生からは変な目で見られたり嫌なことを言われたりした。でもそれはただの他人の評価。私たちには関係ない。
「水…のんだ…?」
「うん!飲んだよ!」
「そっか…じゃあ…電気消すね」
「はいはーい!おやすみおねぇちゃん!」
「うん…おやすみ…メイ」
私は電気をリモコンで完全に消して布団に入る。隣にメイがいると、どんなに寒くても暖かい。
「……」
「ふふっ…」
電気を消したからと言ってすぐに寝るわけではない。お互いに向き合い瞳を合わせる。メイの美しい瞳は暗闇の中でも見えるほど光輝いている。
メイの瞳は右目が黄色で左目が緑のオッドアイ。私は左右が反対。この世に生まれ堕ちたその時から私たちはこの瞳の色に苦しめられてきた。
小学校の頃はみんな未熟。酷い仕打ちを受けたものだ。ただ…
「好きだよ…おねぇちゃん…」
隣にはいつもメイがいてくれた。どんなに苦しくても隣にメイがいるというだけで毎日頑張ることができた。
「うん…私も好きメイ…また、おやすみ…」
「おやすみ…」
瞳を合わせていた私たちは今度は唇を合わせる。深いキスではなく浅いキス。でもそれでいい。私たちの愛を確かめる行為はこの程度でいい。
唇を離した後、メイはいつの間にか眠っていた。私は手錠をつけていないもう片方の手でメイの頭を撫でる。直接は言えない、感謝の念を込めて。
私たちはどこかおかしいのかもしれない。でも、それを指摘する者はいらない。私たちの世界の人物は私たちだけでいい。
言うのを忘れていたが、この話は私とメイがさいごを共にするまでの話である。
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