第20話:癒えぬ傷と、孤独な夜の思索。

 報告会議が終わり、響夜きょうやは独りで静かに考え込んでいた。

 カインズの正体、そして自分が倒した魔族が、とんでもない大物だったという事実に、頭の整理がまだ追い付かない。

 だが、それ以上に彼の心を占めていたのは、『あの時』戦った際に感じた、どす黒い感情の渦。


(自分の怒り任せで、取り返しの付かないことをしたかも……)


 自責の念に駆られ、響夜は軽くパニック状態になる。

 息苦しさに胸を押さえる。

 自身を落ち着かせるため、深く深く呼吸をする。

 だが不安と悔恨かいこんは消えず、頭を抱える。

 その様子を静かに見ていたリアーナが、そっと響夜の隣に座る。


「キョウヤ…」

「……」

「少し…話しておきたい事があるの…」


 響夜は、リアーナの真剣な眼差しを見て、また自身を落ち着かせ、大きく息を吐いた。


 リアーナは、さらわれた響夜を捜索している際に、自分が感じ取った『黒い感情』が、響夜のものだとすぐに判った事を切り出した。

 そして、彼女が最も『恐れていた事』を、響夜に打ち明ける。


「キョウヤの持つ力は、確かに強大よ。でも、その力の制御を誤れば、今回みたいに自身への反動が大きくなる。それは、今回の疲労感や回復力の低下だけでは…済まされないの」


 リアーナの言葉に、響夜は真剣な表情で耳を傾ける。


「通常、キョウヤが魔法剣を使う分には問題ないわ。でも、『怒り』で『狂気』を呼び起こした場合は、制御が外れて一気に魔力が放出される。そうなると、自分でも気付かない内に、力を使い切ってしまって、今回みたいに身体へのダメージも…。下手をすれば……死に直結することもある」


 リアーナは、響夜の目をまっすぐ見つめた。


「魔力の制御は、個々の『精神力』が鍵よ。キョウヤの力が強大であればあるほど、その精神力が試されることになるわ」


 響夜きょうやは、改めて自分の持つ『力』と向き合うことになった。

 リアーナの話は、彼の心の奥底に重く響いた。


(あの力……。今まで使っていた力と、全く違うことだけは判った。使用後の疲労感。回復力の低下。……なにより…あとから来る得も知れない罪悪感)


 『光』と『闇』は表裏一体。

 なら、それぞれにかたよらず、上手くコントロールしないと、自身に負担も計り知れないものになる。


(『清濁併せいだくあわせ呑む』か。……難儀だな)


 響夜きょうやは、もしまた今回みたいな制御出来ない『黒い力』が、周囲の…大切な人達に及んだら―――。

 最悪な事態を想像し、青褪める。


(何がチート能力だ。めちゃくちゃ怖い能力じゃないか…これ)


 響夜は、自身の持つ力の奥深さと危険性を改めて噛み締めるのだった。



 * * *



 その日、瑠華るかとカインズは、聖なる森サンクトスの宿泊施設で一夜を過ごすことになった。

 会議が終わり、響夜きょうやはまた独り寝付けない夜を過ごす。

 今までは基本、戦って多少の手傷を負ったとしても、回復力が高かったので、治りは早かった。

 だが、今回はまた症状が全く違う。

 脳裏に、瑠華るかの言葉が蘇る。


 『ガーネスの闇の魔力は厄介でのぅ。治癒魔法は大して効果は無いのじゃ。一種の呪いじゃな。治らぬ訳では無いが、傷痕は残るであろう』


 そして、リアーナの忠告も。


 『魔力の制御は、個々の『精神力』が鍵よ』


 傷の治りが遅いのは、魔族の呪いだけじゃない。

 今の自分の『精神』も影響しているのだろう。


(早く……早く治さないと…)


 と、内心焦る響夜。

 それに、他のみんなが自分を気遣っているのが、逆に申し訳なくて、また独りでふらりと姿を消した。


 響夜がいなくなったことに焦り、ティアが探しに行こうとする。

 だが、リアーナは冷静に彼女を止めた。


「今は独りにさせましょう…。大丈夫。私の守護の範囲内なら、ちゃんと居場所は把握出来るわ」

「それでも……ほっとけ無い!」


 そう言ってティアは飛び出す。


「あぁー!抜け駆けすんな!マスターは私のものだー!」


 そして、また違った対抗心を燃やすリゼッタも、響夜を探しに飛び出した。

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