第19話:明かされる真実、新たな旅路の提案。

 響夜きょうやたちが外に出ると、ギルド長である瑠華るかが穏やかな表情で言った。


「久しいのう!キョウヤ!リアーナも無事で何よりじゃった!」


 その言葉に、リアーナはコハクの安否を尋ねる。


「ギルド長、コハクは……?」


 瑠華は小さく頷いた。


「あやつな……逸早いちはやくわっちに知らせるため、無茶をしおって。『加速魔法』を使った反動で倒れよった。 だが安心しろ。今はギルド本部の医務室で休んでおるよ。大事は無い」


 その言葉に、リアーナは安堵あんどの溜め息をし、静かにコハクに感謝の気持ちを漏らす。


「そう…よかったわ。ありがとう…コハク」


 その様子を傍で見ていたカインズが、一歩前に出る。


「突然で悪いが、緊急で報告会を開きたい」


 カインズの真剣な表情に、場の空気が引き締まる。

 円卓を囲み、瑠華るか、カインズ、リアーナ、響夜きょうやのメンバーで報告会議が始まる。

 内密な話も含むため、ティアとリゼッタは別室で待機することになった。

 不満そうなリゼッタだったが、リアーナの視線に観念したように部屋を出て行った。


 会議室は、重い沈黙に包まれた。

 最初に口を開いたのはカインズだった。

 彼の表情は、いつもの飄々ひょうひょうとした秘書のそれとは異なり、どこか厳粛げんしゅくさを帯びていた。


「報告を聞こうか」


 カインズが、その場を仕切るように言う。

 すると、リアーナが小さく息を吸い込んだ。


「私から話すわ」


 リアーナは、昨日の出来事を、詳細に語り始めた。

 

 瑠華るかもカインズも、表情にはあまり出さなかったが、驚嘆きょうたんする気持ちをおさえ、熱心に報告内容を聞いていた。



 * * *



「……それはまた。なんとも信じ難いのぅ…」


 瑠華るかが、どこか感慨深げに呟く。

 その言葉に、響夜きょうやは顔を伏せ、深く頭を下げた。


「…申し訳ありません。なにも知らなかったとは言え、俺が勝手な行動を取ったから…」


 心苦しそうに謝罪する響夜の様子に、カインズはすぐに言葉を挟んだ。


「いや…。いずれは対処せねばならない事だった。君が気にする事はない」


 瑠華も頷く。


「まあ…厄介者の始末は出来たがのう。…問題は……」


 瑠華はちらり…とカインズを見遣る。

 カインズは、その視線を受けて小さく頷いた。

 そして、響夜たちに視線を戻す。

 その瞳には、今までの秘書としての顔には見られなかった、強い意志が宿っていた。


「先に言っておこう。私は、王都直轄おうとちょっかつ監査部隊隊長かんさぶたいたいちょうをやっている。おもに瑠華……と言うより『旧王都ルアール』の監査が私の真の任務だ」


 響夜は驚きで目を見開いた。

 隣のリアーナは、すでにその事実を知っていたかのように、ただ静かに目を伏せ、黙って話を聞いている。


「黙っていてすまなかった。極秘事項だった故、話せなかった」


 カインズの言葉に、響夜はまた混乱し、考え込む。

 リアーナは、事の重大さを理解しているからか、不安交じりの声で問いかける。


「カインズ……それをキョウヤに話すと言うことは…」

「いや。まだ王国には報告はしていない。だが、遅かれ早かれ、国王の耳に入るだろう」


 瑠華は重々しく口を開いた。


「少々…厄介にはなるのう…。四天王が倒されたとなれば、魔族も大きな動きを見せるであろうし」


 瑠華るかの言葉に、響夜きょうやは再び驚愕し、目を見開く。


「し…っ、四天王!?」

「なんじゃ? 知らなかったのか?」


 瑠華の問いに、響夜は激しく首を左右に振った。

 あの魔族が、そんな大物だったとは……夢にも思っていなかったのだ。


「『ガーネス』。北の山脈の『漆黒扉ヘルズゲート』を生成し、『ルアール』を狙っておった魔族の四天王の一人じゃ。先に対峙した、氷の獣王『ベイリー・スノー』は、ガーネスが送り込んだ前兆に過ぎん。恐らく、こちらの戦力を測っておったのであろうな」


 瑠華るかはさらに続けた。


「『月が黒ずむ日』。あの魔族は、その日を狙っておったんじゃろ。あやつは『闇』を好む」


 響夜きょうや呆然ぼうぜんとしながらも、自分がとんでもない相手を倒してしまったことを改めて実感する。

 そして、カインズが静かに口を開いた。


「状況をかんがみるに、キョウヤにはより性能の良い武具が必要となると判断した。そこで、竜族とドワーフが住まう鍛冶師の街、洞窟鉱山都市どうくつこうざんとし『イーストブルグ』へ行くことを強く勧める」


 その提案に、瑠華やリアーナは頷く。

 カインズは更に続けた。


「その間、王国の問題は私が抑えておく。だから、キョウヤたちには武具を揃えることに専念して欲しい。資金も私から出そう」

「ちょ…、ちょっと待って下さい!それは……ッ!」


 響夜が慌てて言及しようとするが、カインズはすぐに手をかざし、制止する。


「これは『報酬』として受け取ってほしい。偶然にしろ何にしろ、君は危機迫っていた事態を解決してくれた。本来なら死人が出る筈だった。……本当に、感謝している」


 改めて、響夜に深く頭を下げるカインズ。


「……ッ、俺は…」


 やるせない気持ちに言葉が詰まり、困惑しうつむく響夜。

 瑠華は響夜に優しく擦り寄り、扇を広げ、耳元で囁く。


此奴こやつが頭を下げるなんぞ、滅多にないぞ。今は素直に受け取れば良い」


 瑠華るかは満面の笑みを響夜きょうやに向ける。

 カインズは、内なる決意を胸に、今後の支援と助力を約束する。

 そして、響夜たちの背中を押した。

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