第52話:魔王の正体と教育システム
私は実に興味深い再会を果たしていた。
スカーンの正体が判明してから数日後、再び魔王ディアボロスとの面談が設定されたのである。
しかし今回は、学院の正式な会議室での、実に穏やかな雰囲気での対話であった。
「お久しぶりです」と魔王は、前回よりもずっと親しみやすい口調で挨拶した。
「こちらこそ」と私は答えた。
「前回の哲学談義は、実に有意義でした」
会議室には、転生者七名の他に、グレイ教授、ティメウス博士、そしてスカーンも同席していた。まるで研究発表会のような雰囲気である。
「さて」とグレイ教授が口を開いた。
「今日はディアボロスの正体について、正式に説明させていただきます」
魔王は立ち上がると、深々と頭を下げた。
「まず、皆さんにお詫びしなければなりません。私は本当の魔王ではありません」
田村が困惑した。
「では、あなたは何者なのですか?」
「私の正体は」と魔王は説明を始めた。
「エルディア魔法学院最終評価システム、通称『総合成長測定装置』です」
「装置?」と山田が驚いた。
「はい」とティメウス博士が補足した。
「ディアボロスは人工的に作られた存在で、学生の成長度を総合的に評価するためのシステムです」
私は納得した。それで彼があのように知的で論理的だったのか。
「では、魔王としての外見は?」と木村が質問した。
「演出です」とディアボロスは苦笑いした。
「学生の反応を見るため、意図的に『典型的な魔王』を演じていました」
「つまり、我々の反応がテストだったということですか?」と鈴木が尋ねた。
「その通りです」とグレイ教授が頷いた。
「君たちがどのような選択をするか、それが最終評価の基準でした」
私は興味深く思った。
「では、僕が戦わずに質問したのは...」
「満点の回答でした」とディアボロスが嬉しそうに言った。
「暴力ではなく対話を選び、相手を理解しようとした。これこそが我々の求めていた成長の証でした」
「他の転生者たちの反応はどうだったのですか?」と私は尋ねた。
「皆それぞれに興味深い反応でした」とティメウス博士が説明した。
「田村君は私の動機について深く考察し、佐藤さんは母性的な優しさを示し、山田さんは医療的な観点から私の状況を分析しました」
「つまり、誰も戦おうとしなかったということですね」と高橋が確認した。
「そうです」とディアボロスは満足そうに頷いた。
「君たちは皆、『敵と戦う』という固定観念を乗り越えていました」
その時、スカーンが口を開いた。
「くくく、しかし真の敵は別のところにあったのですがね」
「真の敵?」と私は首をかしげた。
「そうです」とスカーンは説明した。
「君たち一人一人の内面にある、弱さや逃避です」
グレイ教授が続けた。
「田中君の場合は、優柔不断さと現実逃避」
「田村君は自信のなさ」
「佐藤さんは過度な自己犠牲」
「山田さんは完璧主義」
「それぞれが自分自身の弱点と向き合い、それを受け入れることができるかどうかが、真の試験だったのです」
私は深く考え込んだ。確かに、この学院生活を通じて、私は自分の優柔不断さと向き合ってきた。
「僕の場合、記憶増強薬の件で自分の弱さを痛感しました」と私は振り返った。
「そして、その弱さを受け入れることで、逆に成長できました」
「その通りです」とディアボロスが評価した。
「君は自分の欠点を直そうとするのではなく、それも含めて自分自身を受け入れた」
佐藤が手を上げた。
「私の場合はどうでしたか?」
「あなたは自分を犠牲にしてでも他者を助けようとする傾向がありました」とスカーンが説明した。
「しかし、自分自身も大切にすることを学びました」
田村も質問した。
「僕は何と向き合ったのでしょうか?」
「自信のなさです」とグレイ教授が答えた。
「しかし、完璧である必要がないことを理解し、等身大の自分を受け入れることができました」
一人一人について、具体的な成長のポイントが説明された。皆、それぞれ異なる弱点を持ち、それと向き合う過程で成長していたのである。
「では、この試験は終了ということですか?」と木村が尋ねた。
「はい」とディアボロスは頷いた。
「皆さんは全員、合格です」
「合格基準は何だったのですか?」と私は興味深く質問した。
「自分自身を受け入れることです」とティメウス博士が答えた。
「完璧になることではなく、不完全な自分を認めること」
「そして」とグレイ教授が続けた。
「他者との関係の中で、互いを支え合うことです」
私はアリアを見た。確かに、彼女との関係を通じて、私は多くのことを学んだ。
「この経験は、皆さんの今後の人生に必ず役立ちます」とディアボロスが締めくくった。
「真の敵は外部にあるのではなく、常に自分の内側にある。そして、その敵と和解することこそが、最も困難で価値のある戦いなのです」
会議が終わった後、私たち転生者は皆で感想を語り合った。
「まさか、自分との戦いが最終試験だったとは」と田村が感慨深く言った。
「でも、確かにそれが一番難しいことですよね」と山田も同意した。
私は今回の一連の出来事を振り返ってみた。
記憶増強薬での失敗、ルナとの出会い、アリアとの関係の発展、スカーンとの腐れ縁、そして魔王との対話。
これら全てが、最終的には自分自身と向き合うためのプロセスだったのである。
「興味深いのは」と私は分析した。
「我々が最も恐れていた敵が、実際には存在しなかったということです」
「どういう意味ですか?」と高橋が尋ねた。
「魔王という外部の脅威は幻想でした」と私は説明した。
「本当の困難は、自分自身の内面にあった。そして、それは誰にも代わりに戦ってもらうことができない」
「なるほど」と鈴木が納得した。
「つまり、真の成長とは、自分との和解なのですね」
帰り道、私は一人で魔導河のほとりを歩いていた。
夕日が川面を照らし、穏やかな光景が広がっている。この数ヶ月間の出来事が、まるで夢のように思える。
しかし、確実に言えることは、私は成長したということである。
優柔不断で、内省的で、時として現実逃避に走る。そんな自分の欠点を、今では受け入れることができる。
完璧である必要はない。ただ、自分らしく生きていけばよいのだ。
つまるところ...最大の敵は常に自分自身なのである。
そして、それを受け入れることこそが真の勝利なのだ。外部の敵と戦うより、内なる敵と和解する方が、よほど困難で価値のある挑戦なのである。
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