第40話:迷宮への突入
アリアは実に困難な決断を下していた。
主人公が感情の迷宮に取り込まれてから二日が経ったのだが、彼の意識は戻る気配がなかった。
医務室のベッドで眠り続ける彼の顔は苦悶に歪み、時折うわ言のように「誰が本当の僕なのか」と呟いている。
「このままでは危険です」と医務室の先生が説明した。
「意識が戻らなければ、精神に取り返しのつかない損傷を負う可能性があります」
アリアは決意を固めた。
「迷宮に入ります」と彼女は宣言した。
「え?」とルナが驚いた。
「彼を迷宮から救い出すには、私たちが直接迷宮に入るしかありません」とアリアは説明した。
グレイ教授から聞いた話によれば、感情の迷宮は物理的な装置であると同時に、精神的な次元でもある。強い感情を持つ者であれば、迷宮内に入ることが可能だという。
「危険ですよ」とヴィクターが心配した。
「迷宮に入った者も、同じように取り込まれる可能性があります」
「でも、彼を見捨てることはできません」とアリアは断言した。
ルナも頷いた。「私も行きます!田中先輩を助けたいです!」
ヴィクターは少し考えてから言った。「僕も参加させてください」
「あなたも?」とアリアは意外そうに尋ねた。
「彼は僕のライバルですが、同時に尊敬する人物でもあります」とヴィクターは答えた。
「それに、アリアさんをお一人で危険な場所に送るわけにはいきません」
三人は学院地下の感情の迷宮装置の前に立った。古代の魔法文字が刻まれた石造りの構造物は、不気味に光を放っている。
「どうやって入るのですか?」とルナが尋ねた。
「強い感情を持って、装置に触れるのです」とアリアは説明した。
「ただし、迷宮内では各自の感情が具現化されます。自分自身と向き合う覚悟が必要です」
三人は互いを見つめ合った。
「準備はよろしいですか?」とアリアが確認した。
「はい!」とルナが力強く答えた。
「ええ」とヴィクターも頷いた。
三人は同時に装置に手を触れた。
瞬間、激しい光に包まれ、気がつくと古い石造りの迷宮の中にいた。
「ここが感情の迷宮...」とアリアは呟いた。
迷宮は複雑な構造をしており、複数の通路が四方八方に延びている。壁には光る魔法文字が刻まれ、床には感情の流れを示すような光の線が走っている。
「田中先輩はどこにいるのでしょう?」とルナが心配そうに尋ねた。
「おそらく、迷宮の最深部です」とアリアは答えた。
「そこに向かいましょう」
しかし、歩き始めてすぐに、異変が起こった。
通路の途中で、突然光の壁が現れ、三人の前を阻んだ。
「これは何ですか?」とヴィクターが困惑した。
その時、光の壁の中に映像が浮かび上がった。それはアリア自身の姿であった。
映像の中のアリアは、主人公と並んで歩いている。二人は手を繋ぎ、幸せそうに微笑んでいる。
「これは...」とアリアは赤面した。
「あなたの願望ですね」とヴィクターが静かに指摘した。
「迷宮が、あなたの心の奥底にある想いを映し出しているのでしょう」
アリアは動揺した。確かにそれは、彼女が密かに抱いていた願望であった。
映像の中の声が聞こえてきた。
「君を愛している」と主人公が言っている。
「私も」と映像のアリアが答えている。
現実のアリアは困惑した。これは彼女の願望の具現化である。しかし、それは同時に彼女が決して口にできない想いでもあった。
「アリア先輩...」とルナが複雑な表情で呟いた。
ルナの前にも、別の光の壁が現れた。そこには、ルナ自身が主人公を守っている映像が映し出されている。
映像の中のルナは、勇敢に主人公の前に立ち、危険から彼を守ろうとしている。
「私が田中先輩を守るんです!」と映像のルナが叫んでいる。
現実のルナは涙を浮かべた。
「これも私の本当の気持ちです」と彼女は認めた。
「先輩を愛しているから、守りたいんです」
ヴィクターの前にも映像が現れた。それは、彼が主人公と学問で競い合っている場面であった。
「君には負けない」と映像のヴィクターが言っている。
「僕も負けません」と映像の主人公が答えている。
しかし、その競争は友好的なもので、二人は互いを尊敬し合っている。
「僕の競争心...」とヴィクターは呟いた。
「彼との競争を通じて、僕は成長したいと思っているのです」
三人はそれぞれ、自分の感情と向き合っていた。
アリアは愛情を、ルナは守護欲を、ヴィクターは競争心という名の友情を認めることになった。
「これらの感情は、恥ずべきものではありません」とアリアが言った。
「むしろ、彼を救う原動力になるのです」
三人は光の壁を通り抜けた。すると、迷宮はさらに深い構造を現した。
遠くから、微かに主人公の声が聞こえてくる。
「僕は誰なんだ...」
「田中先輩!」とルナが叫んだ。
「急ぎましょう」とアリアが言った。
しかし、迷宮はますます複雑になっていく。三人はそれぞれの感情と向き合いながら、迷宮の最深部を目指した。
一方、迷宮の最深部では、主人公が三人の自分と永遠の対話を続けていた。
「君は何者だ?」
「僕は...僕は...」
「答えられないのか?」
主人公は絶望していた。自分が何者なのか、もはやわからない。
しかし、遠くからアリアたちの声が聞こえてきた時、彼の中で微かな希望が灯った。
「誰かが...僕を探してくれている...」
それは、自分の価値を外部から確認してくれる声であった。
つまるところ...人を救うには、まず自分自身と向き合わねばならないのである。救済とは常に相互的なものなのだ。
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