第23話:日常に潜む魔法の発見
三週間が経った頃、私は重要なことに気づき始めていた。
魔法とは特別な儀式や呪文によってのみ発動するものではなく、日常生活のあらゆる場面に潜んでいるということである。人との関わり、自然との調和、学びへの真摯な姿勢...これら全てが魔法的な現象を引き起こす可能性を秘めているのだ。
その日の朝、「魔素計算学」の授業で興味深いことが起こった。
いつものように複雑な計算問題に取り組んでいたのだが、隣の席のクラスメートが困っているのに気づいた。彼は数学が苦手で、基本的な公式すら理解できずにいるようだった。
「良かったら、一緒に考えてみませんか?」と私は声をかけた。
最初は遠慮していた彼だったが、やがて一緒に問題に取り組むことになった。私が解法を説明し、彼が理解を確認する。そうしているうちに、不思議なことが起こった。
私自身の理解も深まっていったのである。人に教えることで、自分の知識が整理され、より確実なものになっていく。これもまた一種の魔法的な現象と言えるかもしれない。
授業後、そのクラスメートは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。初めて魔素計算が理解できました」
「いえいえ、私の方も勉強になりました」と私は答えた。
その時、教室の窓から差し込む陽光が一瞬強くなったような気がした。まるで我々の交流を祝福するかのように。
昼休み、アリアにこの体験を話すと、彼女も似たような経験をしていることがわかった。
「私も古代魔法語の授業で、同じようなことがありました。下級生に文法を教えていたら、なぜか自分の発音も上達したんです」とアリアは言った。
「学院の魔法的な仕組みが働いているのでしょうか?」
「そうかもしれません。でも、それ以前に『教えることは学ぶこと』という普遍的な真理があるのだと思います」
その日の夕方、いつものように魔導河を散歩していると、古本屋の店主に出会った。
「やあ、研究は順調ですか?」と店主は尋ねた。
「はい、毎日新しい発見があります。ただ、魔法の定義が曖昧になってきました」と私は答えた。
店主は興味深そうに眉を上げた。
「どういう意味ですか?」
「日常的な行為の中にも魔法的な要素があるようで、何が魔法で何が魔法でないのかわからなくなってきました」
店主は微笑んだ。
「それは良い気づきですね。実は、真の魔法使いとは、日常のあらゆる行為を魔法として理解できる人のことなのです」
店主は続けた。
「君たちは魔法学院で特別な技術を学んでいると思っているでしょうが、実際に学んでいるのは『魔法的な見方』なのです」
「魔法的な見方?」
「そうです。同じ現象でも、見る人によって魔法にもなれば単なる偶然にもなる。君が友人を助けた時に川面に現れた光の輪も、それを魔法として認識できる感性があったからこそ意味を持ったのです」と店主は説明した。
私は深く考え込んだ。確かにその通りかもしれない。
「では、我々が学院で学んでいる魔素計算や古代魔法語は...」
「それらは魔法的な見方を身につけるための訓練です。計算や暗記そのものが目的ではなく、物事を深く理解する能力を養うためのものなのです」と店主は答えた。
その夜、一人で部屋にいながら、私は店主の言葉を反芻していた。
つまり、私がこの異世界で求めていた「華麗なる魔法」は、実は日常生活の中にずっと存在していたということなのだろうか。
窓の外を見ると、魔導河が月光に照らされて静かに流れている。その光景を見ていると、確かに魔法的な美しさを感じる。
しかし、それは川自体に魔法があるのではなく、私がそれを魔法として感じる心があるからなのかもしれない。
「つまるところ...魔法とは外にあるものではなく、内にあるものなのだな」と私は呟いた。
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