第22話:友情の深化と小さな発見

アリアの指摘以来、私は研究に対する姿勢を改めることにした。


意図的に現象を起こそうとするのではなく、自然な日常生活の中で起こることを素直に観察する。これが正しいアプローチなのであろう。


その日の夕方、アリアと一緒に魔導河を散歩していると、彼女が興味深い話をしてくれた。


「実は私も、小さな発見をしたんです。図書館で勉強している時のことです」とアリアは言った。


「どのような?」


「困っている後輩に魔法理論を教えてあげた時、手にしていたクリスタルペンが一瞬光ったんです」


私は驚いた。「それは魔導河の光の輪と似ていますね」


「ええ。もしかすると、魔導河だけでなく、学院全体に何らかの『善意感知システム』のようなものがあるのかもしれません」


これは実に興味深い仮説であった。我々はさっそくグレイ教授に報告することにした。


教授の研究室で、我々の発見を説明すると、教授は深く頷いた。


「君たちの観察は正しい。実は、この学院全体が一種の魔法装置なのだ」と教授は言った。


「魔法装置?」


「そうだ。学院の設立者たちは、単に魔法技術を教える場所ではなく、人格形成を促す場所を作ろうとしたのだ」と教授は説明した。


「そのため、学生の心の状態に反応する仕組みが随所に組み込まれている」


私とアリアは顔を見合わせた。


つまり、我々の善なる行為は学院自体に記録されているということなのか。


「では、逆に悪いことをすると何か起こるのですか?」と私は尋ねた。


教授は苦笑いした。


「君の記憶増強薬の件を思い出してみたまえ。あの時、君は学院のあちこちで小さな不調を引き起こしていたはずだ」


確かにその通りであった。


薬の副作用で混乱していた時期、教室の魔法照明が点滅したり、食堂の料理が妙に不味く感じたりしていた。


当時は偶然だと思っていたが、実は学院の反応だったのかもしれない。


「しかし」と教授は続けた。


「君が失敗から学び、友情を深めた時、学院も君を受け入れたのだ」


その夜、アリアと一緒に図書館で勉強していると、実に心地よい時間を過ごすことができた。


二人で魔法理論について議論し、互いの理解を深める。競争ではなく、協力による学習である。


その夜、アリアと一緒に図書館で勉強していると、彼女がぽつりと言った。


「最近、異世界転生小説をあまり読まなくなったんです」


「どうしてですか?」


「この世界での生活が、だんだん面白くなってきたからです。以前は『現実逃避の姫君』と呼ばれていましたが、今は現実の方が小説より興味深いかもしれません」とアリアは微笑んだ。


「それは素晴らしいことですね」


「ええ。あなたとの友情、グレイ教授の授業、魔導河の謎...これら全てが、どんな小説より魅力的です」


私は深く感動した。アリアも私と同じように、この世界で真の価値を見つけていたのである。


「でも、時々、まだ『もっと劇的な展開があればいいのに』と思ってしまいます。根っからの現実逃避癖は、そう簡単には治らないようです」とアリアは付け加えた。


我々は顔を見合わせて笑った。完璧に変わる必要はない。少しずつ成長していけばよいのである。


勉強を終えて図書館を出ようとした時、不思議なことが起こった。


普段は暗い夜間の廊下が、なぜか柔らかい光に包まれていたのである。魔法照明が通常より明るく光り、まるで我々を祝福するかのようであった。


「あれ?夜間照明はこんなに明るくないはずですが...」とアリアは首をかしげた。


私も同感であった。


しかし、その光は決して不自然ではなく、むしろ心を落ち着かせる暖かい光であった。


廊下を歩いていると、他の学生たちも同じ現象に気づいているようだった。


「今夜の照明、いつもと違うね」「なんだか気持ちが良い」といった声が聞こえてくる。


寮に戻る途中、アリアが呟いた。


「もしかすると、私たちだけでなく、学院全体の雰囲気が良くなっているのかもしれませんね」


「どういう意味ですか?」


「最近、学生同士の協力が増えているような気がするんです。お互いに助け合う雰囲気が」


確かにその通りであった。以前は個人主義的だった学院の雰囲気が、微妙に変化している。競争よりも協力を重視する風潮が生まれているのである。


「つまるところ...善意は連鎖するものなのだな」と私は呟いた。





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