第20話:真実の川面と新たな始まり
特別セミナーの後、私は深い充実感と同時に混乱を覚えていた。
あの水面に映った「可能性の世界」は、果たして本当だったのだろうか。それとも、満月の夜の幻想に過ぎないのか。グレイ教授は「想像と現実の境界は曖昧」と言ったが、それでは何を信じればよいのか分からない。
翌日、アリアと一緒に昨夜の体験について話し合った。
「あなたは何を見ましたか?」と私は尋ねた。
「美しい図書館でした。天井まで届く本棚に、魔法の本ではなく様々な分野の書物が並んでいて...私が司書として働いていました」とアリアは答えた。
「司書?魔法使いではなく?」
「ええ。でも、とても満足そうな表情をしていました。もしかすると、私の本当の望みは魔法使いになることではなく、知識を整理して人々に提供することなのかもしれません」とアリアは微笑んだ。
私は感心した。アリアは昨夜の体験から、自分自身について新たな理解を得ていたのである。
「私が見たのは庭園でした。美しい花に囲まれて、平穏に暮らしている自分でした」と私は話した。
「それは素敵ですね」
「でも、どこか物足りない感じもしました。確かに平和でしたが、刺激がないというか...」と私は正直に告白した。
アリアは頷いた。
「つまり、あなたは平穏な人生よりも、困難があっても充実した人生を求めているということでしょうか」
「そうかもしれません。記憶増強薬の件も、こうして振り返ってみると貴重な体験だったと思います」と私は答えた。
その日の午後、グレイ教授が私たちを研究室に呼んだ。
「昨夜の体験はどうだったかね?」と教授は尋ねた。
我々は正直に感想を述べた。教授は満足そうに頷いている。
「君たちは重要なことを学んだ。人生には無数の可能性があり、我々は常に選択を迫られている。しかし、選ばなかった道もまた我々の一部なのだ」と教授は言った。
「どういう意味ですか?」
「君が薬に手を出したことを後悔しているかもしれないが、その体験があったからこそ、真の友情の価値を知ることができた。すべての選択には意味がある」と教授は説明した。
確かにその通りであった。もし記憶増強薬の件がなければ、アリアとの友情もこれほど深くはならなかっただろう。
「では、これからも困難な道を選ぶべきなのでしょうか?」とアリアが尋ねた。
教授は微笑んだ。
「困難な道を選ぶのではない。自分にとって意味のある道を選ぶのだ。それが結果的に困難であっても、意味があれば価値がある」
その時、古本屋の店主が研究室に入ってきた。まるで約束でもしていたかのように。
「皆さん、お疲れさまでした。昨夜の体験はいかがでしたか?」と店主は言った。
「興味深いものでした。ところで、あなたと教授はどのような関係なのですか?」と私は答えた。
店主と教授は顔を見合わせて笑った。
「実は、彼は私の元同級生でね。昔、一緒に魔導河の研究をしていたのだ」と教授が説明した。
「魔導河の研究?」
「そうだ。満月の夜に水面に映る真実について、長年調べている」と店主が続けた。
「君たちのような若い感性の持ち主に協力してもらうことで、新たな発見があるかもしれないと期待していたのだ」
つまり、我々は最初から研究の対象だったということである。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、重要な研究に参加できたことを誇らしく思った。
「これからも協力していただけるかね?」と教授が尋ねた。
私とアリアは顔を見合わせて頷いた。
「ところで、来週の満月の夜から、より本格的な研究に参加してもらおうと思う。魔導河の秘密は、まだほんの一部しか明かされていないのだ」と店主が続けた。
私とアリアは顔を見合わせて頷いた。確かに興味深い話だが、もはや神秘的な現象を追い求めることが主目的ではない。
――― その夜、寮の部屋で私は日記を書いていた。
『今日で特別セミナーが終了した。転生してから約二ヶ月が経ったが、最初に抱いていた華麗なる冒険への憧れとは全く違う形で、この世界を理解し始めている。
真の魔法とは、日常の中にある。友人との語らい、学びへの真摯な取り組み、困っている人への手助け、美しい夕日を愛でる心...これら全てが魔法なのだ。
明日からはさらに深い研究が始まる。どのような発見が待っているかはわからないが、今の私には恐れはない。なぜなら、真の冒険とは外の世界にあるのではなく、我々の心の中にあるのだから。』
日記を書き終えて窓の外を見ると、魔導河が月光に照らされて静かに流れている。
「つまるところ...我々の学院生活は、これからが本当の始まりということなのだな」と私は呟いた。
窓の外では、魔導河が静かに流れている。その水面には、きっとまだ見ぬ真実が隠されているのであろう。私はこれからの冒険に、大いなる期待を抱いたのである。
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こんにちは、こんばんは作者です!
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!
なんとか第20話まで書き続けることができました。
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